2023年4月5日

  • 学術・研究

がん細胞の浸潤性を高め増殖を促進する糖脂質発現エクソソームを発見(古川鋼一特定教授ら)

発表のポイント

  • 浸潤がん[注1]の成長にスフィンゴ糖脂質[注2]GD2が深く関与している可能性を実験で確認
  • GD2陽性のがん細胞から放出された小胞体(エクソソーム)[注3]がGD2を発現し標的細胞を悪性化
  • GD2の合成を阻止するか、次の糖脂質への変換を速めることが腫瘍の成長抑制のカギ

概要

健康な人の体内でも1日に数百~数千個のがん細胞が発生していることがわかっている。免疫細胞ががん細胞を攻撃して排除してくれることで健康が保たれる。ところが免疫機能が不十分だと、がん細胞は死なずに分裂を繰り返し、それらが集まった腫瘍が大きく成長する。がんの進展段階として、発生場所にとどまる非浸潤がんと、周囲に広がる浸潤がんがあり、さらに遠隔臓器に転移するようになる。がんから放出されるエクソソームが浸潤や転移を進めることはこれまでの研究で分かってきたが、エクソソームに浸潤・転移を指令する物質の解明が不十分だった。

中部大学の古川鋼一特定教授と生命健康科学部のファーハナ・イェスミン博士研究員らの研究チームはこのほど、メラノーマ[注4]等のがん細胞で特徴的に増えるスフィンゴ糖脂質(以下、糖脂質)のGD2を有するエクソソームが、浸潤性などの悪性化を進めていることを、ヒトのメラノーマ由来の細胞株を用いた実験で明らかにした。具体的にはGD2を合成しないメラノーマ細胞から、GD2高発現株を作った。それぞれの細胞から放出されたエクソソームを集めて解析したところ、後者の表面にはGD2が発現していた。

GD2無しのエクソソーム、GD2が発現したエクソソームをそれぞれ反対の細胞株に加えたところ、1日経過後にはGD2無しの細胞株の浸潤性が2~3倍高くなることが分かった。これまでの研究で、エクソソームの役割は①がん細胞が健康な組織に浸潤して移動しやすくすること、②周囲の免疫機能を弱めるということが分かっている。今回の結果から、GD2を持ったエクソソームががん細胞の浸潤や転移を促進している可能性が高いことを突き止めた。

今回はメラノーマ細胞で確認したが、脳腫瘍、小児がんの1種である神経芽腫、喫煙と関係が深い小細胞肺がん、乳がん、前立腺がんでも同様の機構が存在すると推定している。GD2には神経細胞の維持と修復に必要な糖脂質GD1bやそれに続くGT1bを合成する中間物質としての役割がある(図)。そのためGD2がより速く後続の糖脂質に変換されるようにするか、がん組織に限局して(またはがん組織特異的に)GD2自身が合成できない状態にすれば、浸潤・転移がんへの進展を抑制できると期待している。今回の研究成果は科学誌Scientific Reportsに掲載された。

古川鋼一先生 図
図 主要なスフィンゴ糖脂質の合成経路

プレスリリース文書

用語解説

[注1]非浸潤がん、浸潤がん、転移がん

がん細胞が周囲の組織に入り込んで成長するのが浸潤がんで、さらに血管やリンパ管を通じて他の場所に広がるのを転移がんと呼び、これらを悪性がんと呼ぶ。これに対して浸潤しないで一カ所にとどまってゆっくり増殖するのが非浸潤がんである。全て悪性腫瘍に含まれる。乳がんの場合、浸潤がんが約80%を占める。

[注2]スフィンゴ糖脂質

糖脂質は糖と脂質が共有結合した物質の総称。代表例はスフィンゴ糖脂質で、長鎖アミノアルコールのスフィンゴシン(C18H37NO2)と脂肪酸が結合したものにさらに糖が結合した高分子。スフィンゴ糖脂質は動物細胞の細胞膜に組み込まれて存在し、糖鎖は細胞の外側へと配向している。

[注3]エクソソーム

細胞から分泌される直径50~150 nm(1nm=10億分の1m)の顆粒状の物質。表面は細胞と同じ脂質二重膜で覆われている。内部には核酸やタンパク質など細胞内の物質を含んでいる。体内を循環して細胞間の情報伝達を担うと考えられている。がん細胞が分泌するエクソソームは血管を通じた他の臓器への転移を促進する。

[注4]メラノーマ

皮膚がんの一種で、悪性黒色腫とも呼ばれる。皮膚のメラニン色素を作り出すメラノサイトががん化して発生する。

論文情報

雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Extracellular vesicles released from ganglioside GD2‑expressing melanoma cells enhance the malignant properties of GD2‑negative melanomas
著者:Farhana Yesmin, Keiko Furukawa, Mariko Kambe, Yuhsuke Ohmi, Robiul Hasan Bhuiyan, Mohammad Abul Hasnat, Momoka Mizutani, Orie Tajima, Noboru Hashimoto, Akiko Tsuchida, Kei Kaneko & Koichi Furukawa
DOI番号:10.1038/s41598-023-31216-4

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