2018年8月9日

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テングザルの太鼓腹に共生する細菌叢を初解明 ―豊かな森は、サルのおなかの菌も豊かにする― (松田一希准教授らの国際共同研究グループ)

研究成果のポイント

  • 複胃をもつ野生霊長類の前胃内に共生する細菌叢を、テングザルで初めて解明した。
  • テングザルの前胃内共生細菌の多様性は、環境との相互作用によって育まれている。食べ物となる植物の多様性が高い、豊かな森に住むテングザルほど、細菌叢がより多様化していることを示した。
  • 餌付けした群れや飼育個体の前胃内には、ヒトが食べるような食べ物の消化に必要と思われる菌種が共生している。つまり、菌叢のヒト化が観察された。
  • 宿主である霊長類と、消化管微生物叢が、生態・環境との相互作用によりどのように共進化してきたのか、更なる解明を推進していく。

発表概要

テングザルの雄
テングザルの雄の体重は約20キロ、雌はその半分くらいの重さしかありません。長く大きな鼻に加えて大きな太鼓腹が特徴的なサルです。(写真提供:松田一希准教授)

テングザルは、東南アジアのボルネオ島の沿岸部から川沿いに広がる密林にのみ生息する絶滅危惧種で、長い鼻と大きな太鼓腹が特徴です。その太鼓腹には、反すう動物と類似した複胃と呼ばれる4つにくびれた特殊な胃がおさまっており、霊長類で唯一、反すう行動が観察されています。テングザルは、この胃に共生する微生物群(細菌叢)を使って、葉に含まれる繊維を発酵・分解してエネルギーに変換できることが知られています。

京都大学霊長類研究所 早川卓志 特定助教と中部大学創発学術院 松田一希 准教授、そして海外の動物園や研究機関からなる国際共同研究グループは、長期にわたる野外観察によって、生活環境の異なる6頭の大人のテングザルのオスから前胃の内容物を採取しました。そして、その内容物に含まれている細菌のDNA 配列を網羅的に解析した結果、多様な細菌叢を同定することに世界で初めて成功しました。さらに、テングザルが生活環境との相互作用によって、環境に適した細菌叢を胃の内部に育んでいることも明らかになりました。

本研究は、2018年7月11日に微生物学の国際専門学術誌「Environmental Microbiology Reports」のオンライン版に掲載されました。

問い合わせ先

松田 一希(中部大学創発学術院准教授)
電子メール:ikki-matsuda@isc.chubu.ac.jp
電話:0568-51-9520(中部大学創発学術院直通)

  • 共同研究者:早川卓志 京都大学霊長類研究所特定助教