研究成果のポイント
- 金魚の水平、垂直、回旋方向の視運動性眼球運動(OKR)(注1)を総合的に評価
- 自然状態の金魚は垂直OKRおよび回旋OKRが水平OKRに比べて5分の1程度とごく僅かであるが、長時間の視覚訓練(視覚刺激提示)により増強される(OKR適応)ことを確認。魚類における垂直と回旋OKRの観察は初めてであり、さらに適応性まで評価した研究は他の動物種を含めても本研究が初
- 金魚とコイの自由遊泳中における頭部運動の解析により、魚の視運動特性が動物種に固有の行動パターンに伴う前庭・視覚経験と関連している可能性を示唆
発表概要
動物の眼球運動は、移動時に視界を安定させるために不可欠である。その中で、前庭動眼反射(VOR)(注2)は頭部の動きを補償するが、持続的な運動では補償能力が低下するため、OKRが重要な役割を果たす。特に、OKRは動物の視覚・前庭経験に基づき適応するが、魚類における3次元OKRの特性は十分に理解されていなかった。
中部大学大学院工学研究科ロボット理工学専攻の田所慎大学院生(航空自衛隊医官)と同大学理工学部AI ロボティクス学科の平田豊教授らの研究グループは、金魚の水平、垂直、回旋OKRの適応特性を総合的に評価した。その結果、自然状態の金魚は水平OKRを主とし、垂直および 回旋OKRは5分の1程度とごく僅かであることを発見した。しかし、長時間の視覚訓練(視覚刺激提示)により 垂直OKRおよび回旋OKRが4倍ほど増強(OKR適応)した。また回旋OKRについては、前上方向のみが増強し、前下方向は変化しない非対称性を示した(図)。
さらに、金魚と近縁種であるコイ(注3)の自由遊泳時の頭部運動を解析した結果、水平(ヨー)方向の低周波運動が支配的であり、左右傾斜(ロール)や前後傾斜(ピッチ)方向の運動は小さく、平坦な周波数特性を持つことが明らかとなった。一方、採餌行動中においては前方傾斜方向(ピッチダウン)の運動が顕著であった。この結果は、金魚のOKRがその行動パターンや視覚・前庭経験に適応している可能性を示唆する。
本研究は、魚類における3次元OKRの存在と、魚類を含む動物の反射性眼球運動が3次元に適応可能であることを示すとともに、行動・生活様式と関連して適応することを明らかにした。OKRは視覚誘導性錯覚(ベクション)などの自己運動知覚に関与し、動物の空間識の形成にも寄与すると考えられる。OKRの神経回路は金魚とヒトで類似していることが知られていることから、将来的には、ヒトの前庭・視覚機能の適応や空間認知の仕組みの解明、さらにはリハビリテーション研究への応用が期待される。
この研究は科学技術振興機構(JST)の助成を受け、戦略的創造研究推進事業(CREST)マルチセンシング領域の研究課題である「空間識の幾何による重力覚解明と感覚拡張世界創出」の一環として実施した。研究成果は、神経生理学の国際誌 Journal of Neurophysiology に3月10日付で掲載された。それに先立ち、昨年11月に名古屋市で開かれた第83回めまい平衡医学会でポスター発表賞を受賞した。

論文の情報
雑誌名: Journal of Neurophysiology
論文タイトル:Horizontal, vertical, and torsional optokinetic responses and their adaptations in fish
著者:Tadokoro Shin、 Miki Shuntaro、 Toshimi Yamanaka、 Yutaka Hirata
DOI: 10.1152/jn.00565.2024
用語説明
注1 視運動性眼球運動(OKR)
視野全体の視覚刺激の動きと同じ⽅向に眼球を回転させる反射性の眼球運動。英語ではOptokinetic Response(略称OKR)。これにより、動物が動く際に頭部動揺が⽣じても、⾒ているものがブレずに安定した視野が得られる。ビデオカメラの⼿ぶれ防⽌に似た視覚駆動性の”頭ぶれ防⽌”機能。⿂類から⼈までほぼ共通した神経メニズムで⽣じることが知られている。
注2 前庭動眼反射(VOR)
頭が動いた時に、それと反対⽅向に眼球を回転させる反射性の眼球運動。英語ではVestibulo-Ocular Reflex(略称VOR)。これにより、動物が動く際に頭部動揺が⽣じても⾒ているものがブレないで安定した視野が得られる。ビデオカメラの⼿ぶれ防⽌に似た前庭駆動性の”頭ぶれ防⽌”機能(前庭とは⾓速度や加速度を検出する内⽿に存在する感覚器)。OKR と神経機構を共有しており、⿂類から⼈までほぼ共通した神経メカニズムで⽣じることが知られている。
注3 金魚と近縁種であるコイ
金魚とコイは魚類の分類でコイ目コイ科の淡水魚。金魚はコイ科フナ属に、コイはコイ科コイ属に分類され、いずれも水草やイトミミズなどの水底の生き物(benthos)を食べる。
本学の問い合わせ先
研究に関すること
平田 豊(中部大学 理工学部 AIロボティクス学科 教授)
Eメール:yutaka[at]fsc.chubu.ac.jp ※アドレスの[at]は@に変更してください。
電話:0568-51-9476(平田研究室)
報道に関すること
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