発表のポイント
- 空中写真の判読と現地調査を組み合わせ、令和6年能登半島地震に伴う津波の詳細な浸水範囲と津波の高さ、被害との関係を明らかにしました。
- 津波の浸水範囲の面積は3.7㎞2でした。能登半島の東西沿岸では連続的に津波の浸水が生じ、半島北岸では部分的にしか認められませんでした。このような特徴は、既存の津波浸水想定の結果と調和的なものでした。
- 津波の高さは能登半島の西岸で高く、志賀町富来や輪島市黒島で標高8m以上の地点で津波による漂着物を確認しました。20世紀以降に能登半島北部に到達した津波と比較すると、今回の津波は最大のものであったといえます。
- 津波による被害の分布は津波の高さとは異なり、半島における地形条件の地域的な差異と集落の立地条件、海岸構造物の有無によるものであることがわかりました。
概要
福岡教育大学の岩佐佳哉講師、広島大学の中田高名誉教授、熊原康博教授、中部大学の杉田暁准教授、千葉大学の濱侃助教、金沢大学の青木賢人准教授らの研究グループは、空中写真の判読と現地調査を組み合わせることで、令和6年能登半島地震に伴って発生した津波の詳細な分布と高さを明らかにしました。その結果、令和6年能登半島地震に伴う津波の被害は半島における地形条件の地域的な差異と集落の立地条件、海岸構造物の有無によることが明らかとなりました。
本研究成果は、2025年7月2日に国際的学術誌『Earth, Planets and Space』に掲載されました。
背景
2024年1月1日に発生した令和6 年能登半島地震(マグニチュード7.6)では、海底の活断層が活動したことにより津波が発生し、北海道から長崎県までの日本海側で津波が到達しました。震源の近くに位置する能登半島では津波による大きな被害が発生しましたが、地殻変動による海岸の隆起により津波観測点が欠測となり、津波の高さがわかっていませんでした。
成果
国土地理院に提供いただいた高解像度空中写真の判読と現地調査を組み合わせて、津波の詳細な浸水範囲と津波の高さを調べました。その結果、浸水範囲の面積が3.7km2であることが明らかになりました。能登半島の東西沿岸では連続的に津波の浸水が生じていた一方で、半島の北岸では部分的にしか認められませんでした(図1)。また、半島の西岸では志賀町から輪島市黒島にかけて連続的に津波による浸水が生じており、東岸では珠洲市から能登町白丸にかけての地域に津波の浸水が集中していました。特に、珠洲市鵜飼や能登町白丸では海岸から400–500m内陸まで津波が到達し、家屋が流失する被害が生じました(図2)。このような特徴は、2012年に石川県が震源を特定して行った津波浸水想定の結果と調和的なものでした。本研究では論文とともに浸水範囲のGISデータを公表しました。GISソフトや国土地理院の地理院地図を用いることで、津波による浸水範囲を詳細に閲覧することができます。
津波の高さは能登半島の西岸で高く、志賀町富来や輪島市黒島で標高8m以上の地点で津波による漂着物を確認しました(図3)。能登半島東岸では、珠洲市高屋や寺家、能登町白丸で標高5mを超える地点に津波が到達していましたが、それ以外の地点では総じて標高4mを超える地点にまでは津波が到達していませんでした。これは、震源断層の変位量や震源断層との位置関係によるものであると考えられます。また、20世紀以降に能登半島北部に到達した津波と比較すると、今回の津波は最大のものであったといえます。
津波による被害は主に能登半島の東岸で大きなものであり、西岸で高いという津波の高さの特徴とは異なっています。津波が高かった半島の西岸では、海岸から一段高い海成段丘の上に集落が立地していることに加え、地震時の地殻変動による隆起が生じたことで、津波が到達しなかったと考えられます。一方で、半島の東岸では集落が海に直接面した低地に立地していたことに加え、防波堤や防潮堤などの海岸構造物がほとんど存在しなかったことも被害を大きなものにした一因であると考えられます。
今後の展望
日本海沿岸地域では、海底活断層が陸域近傍に存在するため、地震発生から津波の到達までの時間が非常に短いことが従来から指摘されてきました。一方で、日本海沿岸地域における大規模な津波は、1993年に発生した日本海中部地震以来発生していませんでした。本研究の成果は、日本海沿岸地域における津波被害の特性を理解し、その軽減を図るうえで重要な知見を提示するものであると考えます。
本研究では、令和6年能登半島地震による津波浸水の範囲が、震源を特定した既存の津波浸水想定の結果と調和的なものであることを示しました。これにより、津波浸水に関するハザードマップの有用性が認知され、全国の沿岸地域にお住まいの方々の防災意識のさらなる涵養に寄与することを期待します。



論文情報
- タイトル: Distribution of tsunami inundation area and tsunami heightassociated with the 2024 Noto Peninsula earthquake, central Japan
- 著者:Yoshiya Iwasa, Takashi Nakata, Yasuhiro Kumahara, Satoru Sugita, Akira Hama and Tatsuto Aoki (は責任著者)
- 著者所属:岩佐佳哉(福岡教育大学教育学部)、中田 高(広島大学名誉教授)、熊原康博(広島大学大学院人間社会科学研究科)、杉田 暁(中部大学中部高等学術研究所 国際GISセンター)、濱 侃(千葉大学大学院園芸学研究院)、青木賢人(金沢大学人間社会研究域)
- 掲載誌:Earth, Planets and Space
謝辞
本研究では国土地理院から高解像度の空中写真を提供していただきました。また、本研究の遂行にはJSPS 科研費(JP23K18735,JP24K07718)および中部大学問題複合体を対象とするデジタルアース共同利用・共同研究(IDEAS202406)を使用しました。
お問合わせ先
研究に関すること
杉田 暁(中部高等学術研究所 国際GISセンター 准教授)
E-mail:satoru.sugita[at]fsc.chubu.ac.jp ※アドレスの[at]は@に変更してください。
報道に関すること
中部大学 入試・広報センター(広報課)
Eメール:chubu-info[at]fsc.chubu.ac.jp ※アドレスの[at]は@に変更してください。
電話:0568-51-5541(直通)