言葉の魅力が詰まった辞書について研究する
プロフィール
関山 健治先生。愛知県尾張旭市出身。愛知淑徳大学大学院 文学研究科英文学専攻 博士課程単位取得満期退学。沖縄大学専任講師・准教授を経て2014年に中部大学に着任。現在は、人間力創成教育院 語学教育プログラム(英語) 准教授。
休日は、「辞書を持って旅に出よう」をモットーに、鉄道や航空機での一人旅を楽しんでいる。これまで、北は宗谷岬から南は石垣島まで、日本の全47都道府県と、米国50州のうちの24州に足を踏み入れている。次の目標は世界のすべての大陸を制覇すること。
先生の研究内容

「私は、応用言語学の中でも英語・日本語の辞書学を専門にしています。英語や日本語の辞書がどのように作られ、どのように進化してきたのか。特に電子辞書やスマートフォンの辞書アプリといったデジタル辞書の歴史や技術、そして辞書利用者がどのように検索するのかといった行動を研究しています。また、英和辞典の校閲や編集、つまり『辞書を書く』仕事にも携わっています。
辞書というのは、普通の本のように最初から最後まで読むものではありません。学生が使う辞書には10万語ほどの単語が収録されていますが、その多くは目に触れられることなく静かに出番を待っています。
私はよく『10万人のアイドルグループがコンサートをしているようなもの』と例えるのですが、観客から見えないメンバーも、センターのアイドルと同じように全力でパフォーマンスをしている。どこのページを開いても、主役級の単語たちが集まっている、そんな辞書の世界に、私は強く惹かれています」
研究を始めたきっかけ

「小学生の頃の私は、切手を集めたり、百科事典を拾い読みしたり、時刻表を眺めて旅行計画を立てたりするのが大好きでした。
辞書の研究者になるとは夢にも思っていませんでしたが、今振り返ると、当時夢中になっていた『集める』『雑多な知識を得る』『まとめる』という行為は、すべて今の研究につながっていたのだと感じます」
先生の英語教育方針

「私は、辞書の魅力を学生に伝えたいという思いから、期末試験を辞書持ち込み可で実施しています。単語の暗記力が成績を左右する従来の試験とは異なり、『辞書を使えば英文は読める』という自信を学生に持ってほしいからです。
実際に、英単語が覚えられず、高校の頃の英語のテストではいつも赤点だった学生が、私の授業ではS評価を取ったと誇らしげに話してくれたことがあります。辞書の研究や教育を通して学生を笑顔にできたことは、私にとっても大きな励みになりました。
一方で、最近はスマートフォンで検索するのが当たり前になり、辞書を持っていない学生も増えています。そのため、単に『辞書を買いなさい』『辞書を引きなさい』と伝えるだけでは、なかなか学生には響きません。
そこで、私が学生時代から更新し続けている『英語・日本語の辞書へのアプローチ』という資料を受講生全員に無料で配布し、授業の中で辞書の使い方や選び方を丁寧に指導しています。また前述の通り、辞書を持ち込める試験を実施することで、辞書を積極的に使おうという意識づけも行っています。
その結果、入学直後は辞書を使った経験がほとんどない学生が多いクラスでも、期末試験の頃にはほぼ全員が辞書を購入し、持参するようになっています。
また、学生時代にESS(English Speaking Society)でスピーチに取り組んでいた経験を生かし、英語が得意な学生には学外の英語スピーチコンテストへの出場を勧め、原稿作成や話し方の指導も行っています。
英語が専門ではない学生でも毎年予選を通過しており、来年度は本選での入賞ができる学生を輩出できるような指導を目指しています。
出場者が英語を専攻する学生ばかりのコンテストで、自身の英語力が通用することに自信を持ってほしい、対外的に通用する、“あてになる英語力”を伸ばしてほしいと考えて指導しています」
先生の学生時代
「大学時代の私は、根っからの『英語オタク』でした。中学校・高校の英語教員を目指し、進学塾でチューターのアルバイトに熱中していました。そんな私が意識を変える転機となったのは、バイト仲間の一言です。
『母語である日本語にもっと興味を持つべきだ』
この言葉をきっかけに日本語学や日本語教育にも関心を持つようになり、独学で日本語の勉強を始めました。普段何気なく使っている日本語も、改めて学ぶと非常に面白く感じられ、日本語教育能力検定にも合格しました。こうして、英語と日本語に“橋をかける”研究や教育をしたいと考えるようになったのです。
当時は紙の辞書が全盛期で、重い英和・和英・英英辞典を常に持ち歩いていました。恋人と会うときでさえ辞書を持っていたため、『辞書と私とどっちが大事?』と言われたこともあります(笑)。その後、紙の辞書を丸ごと収録した電子辞書が発売されました。初期の電子辞書は収録されている辞書の数こそ少なかったものの、当時の私には衝撃的で、この電子辞書の登場も辞書研究に深く関わる大きな契機となりました」


メッセージ

「スマホやAIの普及で、英語を学ぶ際に、辞書を丁寧に引かない、読まない学生が増えています。
しかし、正確な情報を責任を持って教えてくれる辞書は、これからも学びの主役であり続けると私は思っています。
SNSの炎上など、ことばに関するトラブルが近年増えています。ことばは他の人の心に響く器になるという意味で私の造語で『響器(きょうき)』であると考えています。決して『凶器』であってはなりません。
辞書を大切にできる人は、ことばを大切にできる人。
ことばを大切にできる人は、ことばを使う人(自分を含め)を大切にできる人。
そして、人を大切にできる人は、世の中を大切にできる人になると信じています」
