2022年4月1日

  • 教員

生命健康科学部 生命医科学科 新谷正嶺先生

新谷先生メイン

生物物理学、医工学、情報科学が専門
ナノスケールの生体分子が頑強な心拍リズムを生み出す仕組みについて研究

プロフィール

新谷 正嶺(シンタニ セイネ)先生。早稲田大学大学院 先進理工学研究科 物理学及応用物理学専攻博士後期課程修了。理学博士(早稲田大学)。博士課程に在籍中、早稲田大学 先進理工学部 応用物理学科助手を兼任した。東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻で日本学術振興会特別研究員・PDを務め、2017年11月中部大学に着任。生命健康科学部 生命医科学科講師。

アメリカ カリフォルニア州生まれ。奥様とお子さん1人の3人家族。趣味は研究をすること。

新谷先生を Close Up!

先生の研究内容

「心臓が生涯休まずに、丈夫な心拍リズムを刻み続ける仕組みの研究をしています。心臓は拍動を指揮する細胞である、ペースメーカー細胞からの周期的な電気刺激によって拍動すると考えられていました。私は新たに実験方法を開発し、心筋細胞を体温程度に温めることで、心筋細胞自身がペースメーカー細胞とは独立し、心拍に近い周期で収縮と弛緩を繰り返す、熱筋節振動状態(HSOs)になることを世界で初めて発見しました。そして心拍まで再現する数理モデルを使って、この現象を再現することで、心臓が拍動ごとに速やかに心室拡張をして血液を充填できるのは、このHSOs特性によるものであると予想を得ることに成功しました。現在も、心拍リズムの頑強性に関する先駆的な成果を捻出し続けています。私の研究は、生命の仕組みの解明を目指す基礎研究ですが、医学や工学への応用も可能です。例えば、心筋細胞はほとんど細胞分裂をしないので、心筋細胞の一部が死んでしまうと、残りの心筋細胞の負担が増加し、どんどん弱っていってしまうという不可逆的な悪循環が生じてしまいます。なので、心筋細胞に負荷がかかる前の段階で対処する病気前診断が、健康寿命延伸のために重要となってくるのです。私の研究はそのための基礎研究にもなっています」

先生の研究

研究を始めたきっかけ

新谷先生

「小学生の頃から知的好奇心が強く、将来は研究者になりたいと考えていました。大学では応用物理学科に所属し、3年生で研究室を選ぶまでの間、2年半は数学をひたすら学び、残りの半年で物理学や応用物理学を学んで応用物理学の基礎を固めました。研究室を選ぶ際は、素粒子理論の研究からロボット開発をする研究室まで選択肢はたくさんありましたが、2年間培った基礎を生かしつつ実際に実験計測も行え、何よりも生命の仕組みについて研究できる生物物理学を学びたいと考え、実験生物物理学の研究室を選択しました」

「深海の圧力で筋原線維の構造と機能の変化を解明」の研究結果を発表

「2021年4月に『深海の圧力で筋原線維の構造と機能の変化を解明』の研究結果を発表しました。筋原線維(心筋や骨格筋)は、単体では確率的にしか働けないミオシン分子などのたんぱく質分子が、結晶のように組織的に集まって、階層的な構造を作ることによって、高度な機能を発揮できるようになっています。しかし、その構造を均一かつ定量的に崩す手段が無かったこと、構造を崩した筋原線維の高度な収縮関連機能を評価する手法が無かったことから、その関係は未だよく分かっていませんでした。そこで私は、静水圧を利用して、筋原線維の構造を均一かつ定量的に崩す方法を開発しました。40~80 MPaという深海の最大水圧の4倍以上の圧力をかけながら、その高静水圧下で筋原線維がどのように構造変化するのかを世界で初めてリアルタイムに観察し、その結果から、どのような溶液下で、どれくらいの圧力をどれくらいの時間かければ、どんな筋原線維試料を得られるのかを明らかにしました。そして、私の発見した、筋原線維を温めることによって、収縮と弛緩を繰り返す熱筋節振動状態にする技術を利用することで、加圧処理筋原線維の力学特性を明らかにしました。顕著な結果としては、筋原線維の自励的振動収縮の平均振動数が、さまざまな加圧操作による構造変化に対して頑強に維持されることが分かりました。これはミオシン1分子の力学酵素活性が筋節振動の平均振動数を決める因子であることを示唆しています」

新谷先生リリース

電子顕微鏡ライブイメージング法の開発

「自身の研究を進めるため、新たな研究手法の開発も行っています。その中から、最近開発に成功した研究手法の電子顕微鏡ライブイメージング法(DET膜法)について紹介します。電子顕微鏡は、光学顕微鏡の分解能(200 nm)より3桁ほど高い分解能(0.5 nm)を有しています。そして、同じ倍率の観察で数十倍焦点深度が深いという利点があります。しかし、従来の電子顕微鏡は、観察試料を固定して、その静止画像を取得するしかないという難点がありました。私は、変形性と電子線透過性に優れた薄膜を作成して用いることで、溶液に浸かったままの生きた観察試料の構造と動きの電子顕微鏡計測を可能にしました。心臓の研究を進めるために開発したものですが、他の研究や検査でも応用できる面白い技術だと自負しています」

ライブイメージング法

先生の学生時代

「大学時代は、『理工展連絡会』という理工学部の学園祭運営サークルに所属し企画局長も務めていました。私が中心となり目玉企画として『第1回ロボット大会』を企画しました。集客を図るために大学の広報局と連携したり、大会のステージデザインから設計・作成まで他学科の学生とも協力したりしながら開催しました。この大会は、学外からも参加者が集ったことやテレビ局の取材が入ったこともあり、学園祭の来場者数が例年の1.5倍になりました。学業においても、取得可能な科目は取れる限り取り、学科の物理学・数学の演習問題もクラスの平均点よりも高い点数を取りました」

大学祭実行委員

理工展連絡会の仲間と(左から2人目が新谷先生)

AI数理データサイエンスセンターにも所属

「2021年12月より『AI数理データサイエンスセンター』にも所属しています。現在、ディープラーニングという、人間の脳内にある神経細胞とそのつながりである神経回路をニューラルネットワークという数学的モデルで表現する人工知能技術が登場し、かつては人に任せていたことを機械に任せられるようになってきました。生命医科学科の学生が進む医療分野においても例外ではないので、学生には適切な教育を受けることで仕事を失うことなく活躍できるようになってもらいたいと考え、以前からプログラミングや人工知能についての勉強や研究も進めていました。AI数理データサイエンスセンターに所属したことでAIについてもっと深く学ぼうと考え、経済産業省が行っている実践的AI人材育成プログラム『AI Quest』に参加し、AI課題優秀賞や総合優秀賞を受賞しました。また、世界的なAI技術コンペKaggleでKaggleマスターの称号を持つ方から高度なAI開発ができると評価もいただきました。

自身の研究活動には、AIを利用して活動の効率化を行う一方で、発見が出来たらAI由来のブラックボックスを抱え込まないで済むAIの使い方をしています。具体的には、実験データを入力して、データに潜む関係性を予測する数式を出力とすることで、見落としを抑制して効率的な法則発見を行えるようにしたりしています。このAI由来のブラックボックスを抱え込まないで済む利用の仕方となるAIを「学習させる人工知能(AIL: Artificial intelligence to learn)」と命名し、その発展と利用に取り組んでいます。
今後は、センター所属の専門家の先生方と意見交換や共同研究を行い、自身のAI×数理×実験の複合技術に磨きをかけて、教育への貢献をしていきたいと考えています」

メッセージ

新谷先生メッセージ

「中部大学に着任してから、さまざまな学生を指導してきましたが、すべての学生が卒業研究で何らかの新しい発見や技術の開発に成功し自信を持って卒業しています。3年生までに基礎学力の修得に努め、4年生になったら積極的に卒業研究に取り組んでください。授業は受け身の学びですが、卒業研究は自分で開拓する学びなので、わずかでも世界で初めての成果を出せたら、確かな自信の源になります。なので自信を持って、どんどん挑戦してほしいと思います」

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