2023年4月12日

  • 学術・研究

世界初、燃料物質である“油”を細胞外に生産する微細藻類の作製に成功 -工業利用時の製造や運用に係るコストなどの軽減に期待-(愛知 真木子准教授ら)

NEDOの「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」プロジェクトで大成建設(株)、埼玉大学、中部大学、かずさDNA研究所は、外来遺伝子を導入することなく、燃料物質である“油”を細胞外に生産する微細藻類の作製に世界で初めて成功しました。微細藻類の一種であるシアノバクテリアSynechococcus elongatus PCC 7942株に対して特定遺伝子の発現を抑制・強化することにより、細胞内の燃料物質である遊離脂肪酸(FFA:Free Fatty Acid)を効率的に細胞外に生産することを実現しました。

今回作製した藻類の特長として、外来遺伝子を含まない非組み換え生物であることに加え、FFA生産能力の強化と生産されたFFAを速やかに細胞外に放出させる機能の向上により、燃料物質であるFFAを容易に回収できることが挙げられます。また、培養した藻類を継続的に燃料生産に活用できるため、工業利用時の製造や運用に係るコストなどの軽減が期待できます。

今後、大成建設(株)らは、今回作製した藻類のFFA生産能力の向上を図るとともに、藻類バイオ燃料製造システムの構築と実証試験を行い、藻類バイオ燃料の普及・拡大を推進することで、NEDOとともに脱炭素化社会の実現に貢献します。

プレスリリース文書

1.概要

自然界に生息する微細藻類の中には、油脂などの燃料物質を細胞内に生産・蓄積できる細胞内油脂生産藻類[※1]が存在します。この燃料物質は、ジェット燃料やディーゼル燃料の原料として利用できるため、こうした微細藻類を用いたバイオ燃料生産に関する研究が世界的に進められています。従来、藻類バイオ燃料の製造では、培養した微細藻類を回収・乾燥させた後、細胞内に蓄積された燃料物質を有機溶媒などで抽出していました(図1)。しかし、この工程では製造に係る消費エネルギー全体の50%以上を占めており、実用化に向けて消費エネルギーの低減が重要な課題でした。

図1 従来のバイオ燃料製造フロー

これらの課題を解決し、省エネルギー化を図る手段として、細胞外に燃料物質を生産させる遺伝子改変手法があります。従来の研究では、大腸菌などの外来遺伝子を導入して生産を試みていましたが、遺伝子組み換え生物の工業利用には、環境中への拡散防止に係る規制(カルタヘナ法)[※2]にのっとり、必要な設備の導入や厳密な運転管理が求められます。

そこでNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」(バイオものづくりプロジェクト)[※3]で、大成建設株式会社、国立大学法人埼玉大学、学校法人中部大学および公益財団法人かずさDNA研究所は、外来遺伝子を導入することなく燃料物質である“油”を細胞外に生産する微細藻類の作製に世界で初めて成功しました。微細藻類の一種であるシアノバクテリア[※4]Synechococcus elongatus PCC 7942株(以下、PCC7942株)に対して特定遺伝子の発現強化などを行うことで、燃料物質である遊離脂肪酸(FFA:Free Fatty Acid)を効率的に細胞外に生産させることを実現しました。なお、今回作製した藻類の特長として、外来遺伝子を含まない非組み換え生物[※5]であることに加え、FFA生産能力の強化と生産されたFFAを速やかに細胞外に放出させる機能の向上により、燃料物質であるFFAを容易に回収できることが挙げられます。また、培養した藻類を継続的に燃料生産に活用できるため、工業利用時の製造や運用に係る消費エネルギーとコストの軽減が期待できます。

2.今回作製した藻類の特長

(1)燃料物質である“油”(FFA)の細胞外への放出を強化

PCC7942株が有する特定遺伝子の発現を抑制・強化することにより、細胞内でのFFAの生産能力を向上させるとともに、細胞内のFFAを速やかに細胞外に放出させることを実現しました(図2)。ここでは、遺伝子改変技術を用いてFFAからアシルACP[※6]への合成反応を抑制し、膜脂質からFFAの生成反応とFFAを細胞外に放出する機能を強化することでFFAの細胞外生産を可能としています。

図2 非組み換え藻類における細胞外へのFFA生産機構

(2)燃料物質である“油”(FFA)を細胞外で容易に回収可能

作製した藻類の乾燥菌体重量あたりのFFA生産能力は、1日当たり31mg-FFA/g-DCW[※7]と、細胞内油脂生産藻類(1日当たりFFAとして換算した生産能力:10~120mg-FFA/g-DCW)と比較すると中程度です。しかし、細胞外に生産されたFFAを容易に回収でき(図3)、また培養した藻類を継続的に燃料生産に活用できるため、培養に係るエネルギーやコストの軽減が期待できます。

図3 開発した細胞外FFA生産藻類の燃料生産イメージ(左)と培養の様子(右)

3.今後の予定

大成建設(株)らは今回開発した細胞外FFA生産藻類のさらなる生産能力向上を図るとともに、藻類バイオ燃料製造システムの構築と実証試験を行い、藻類バイオ燃料の普及・拡大を推進し、脱炭素化社会の実現に貢献します。

NEDOは、このような産業用物質生産システムの実証例を増やしていくことで、バイオ由来製品への社会実装の加速や新たな製品・サービスの創出、さらに日本のバイオエコノミー活性化に貢献します。これにより、2050年カーボンニュートラルへの道筋を示し、バイオものづくり分野における温室効果ガスの排出量削減に貢献します。

注釈

※1 細胞内油脂生産藻類

ボツリオコッカス(Botryococcus)、オーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)、シュードコリシスティス(Pseudochoricystis)、ユーグレナ(Euglena)やナンノクロロプシス(Nannochloropsis)などが知られており、乾燥菌体重量あたり50%程度の燃料物質を蓄積する種も報告されています。燃料物質には、植物油に相当する中性脂質(トリグリセリド)、重油に相当する炭化水素、脂肪酸と脂肪酸アルコールの化合物(ワックスエステル)が挙げられます。

※2 カルタヘナ法

「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(通称「カルタヘナ法」)により、国内における遺伝子組み換え生物の使用などを用いる際の規制措置を講じています。また、遺伝子組み換え生物が生物多様性へ影響の審査や適切な使用方法について規定されています。

※3「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」(バイオものづくりプロジェクト)

  • 事業名:カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発
  • 研究開発項目:[3]産業用物質生産システム実証
  • 事業期間:2020年度~2026年度(予定)
  • 事業概要:https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100170.html

※4 シアノバクテリア

ラン藻とも呼ばれ、酸素を発生する光合成を行う原核生物です。

※5 外来遺伝子を含まない非組み換え生物

ここでは、外来遺伝子を含む生物を遺伝子組み換え生物、外来遺伝子を含まない生物を非組み換え生物と称します。

※6 アシルACP

細胞の膜脂質を合成するための原料となるアシルキャリアタンパク質(ACP)に脂肪酸が結合した物質です。

※7 DCW

Dry Cell Weightの略です。乾燥菌体重量を示します。

本学の問い合わせ先

研究に関すること
愛知 真木子(中部大学 応用生物学部応用生物化学科 准教授)
E-mail:makiko[at]isc.chubu.ac.jp ※アドレスの[at]は@に変更してください。

報道に関すること
中部大学 学園広報部広報課
Eメール:cuinfo[at]office.chubu.ac.jp ※アドレスの[at]は@に変更してください。
電話:0568-51-7638(直通)

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