気候変動や人口増加に対する対策が喫緊の課題である現在、食用ウチワサボテン(以下、サボテン)は汎用性と持続性、栽培環境耐性の高い作物として近年世界的な注目を集めています。この作物の利活用推進は、国内における耕作放棄地の再活用・化学肥料や農薬の低減・食品産業の競争力強化などにも貢献する可能性があります。
中部大学(愛知県春日井市、竹内芳美学長)は、生物系特定産業技術研究支援センター(生研支援センター)が公募した「令和5年度オープンイノベーション研究・実用化推進事業※1」に応募し、「サボテン等多肉植物の活用に向けた潜在能力の発掘と解明※2」のテーマが採択されました。本事業は、産学官が連携して取り組む、将来の農林水産・食品分野での社会実装を目的とした革新的な研究シーズを創出する基礎研究や、基礎研究等の成果を社会実装するための実用化段階の研究開発を対象としています。
中部大学は食品や食品添加物の輸入販売などを手がける綿半トレーディング株式会社(東京・新宿、有賀博社長)とコンソーシアムを結成し、繁殖・栽培方法の開発や代謝産物・機能性成分の解析と評価、食品としての調理・加工における食品化学的、栄養学的な解析等の研究を進め、食用サボテンの農業シーズとしての価値を科学的に評価し、社会実装に向けた基盤構築と社会的認知の向上を目指します。
サボテンは世界30カ国以上で生産される作物、日本やアジアでも活躍する可能性
気候変動や人口増加に対する対策が喫緊の課題である現在において、食用ウチワサボテン(以下、サボテン)は汎用性と持続性、栽培環境耐性の高い作物として近年世界的な注目を集めています。例えば、2017年には、国連食糧農業機関が「サボテンは食料安全保障問題の解決に貢献しうる」との見解を表明しています。現在サボテンは我が国ではマイナーな作物ですが、この作物の利活用推進は、国内における耕作放棄地の再活用・化学肥料や農薬の低減・食品産業の競争力強化などにも貢献する可能性があります。
中部大学ではこれまでサボテンの基礎・応用研究を実施し、2021年には愛知県春日井市などと共同でサボテンの利活用推進を目的としたプラットフォーム「サボテン等多肉植物の潜在能力発掘と活用推進プラットフォーム」を設立するなど、サボテンの活用推進に向けた基盤を構築してきました。中部大学は、農林水産業・食品産業の発展と持続可能な社会の実現に向けて、当事業を意欲的に進めていきます。
※1 オープンイノベーション研究・実用化推進事業:国の重要政策の推進や現場課題の解決に資するイノベーションを創出し、社会実装を加速するための、提案公募型の研究開発事業。
※2 令和5年度「オープンイノベーション研究・実用化推進事業」新規採択課題の決定について
※3 サボテン等多肉植物の潜在能力発掘と活用推進プラットフォーム:中部大学が中心となり、サボテンや多肉植物の基礎・応用研究と活用推進に向けて、様々な分野間での情報交換を進め、産学共同研究を促進する基盤を構築するために、NPO法人東海地域生物系先端技術研究会の協力を得て2021年に設立した組織。14の企業や団体などで構成する。
研究期間
2023(令和5)年度から2025(令和7)年度までの3年間
綿半トレーディング株式会社について
綿半トレーディングは、医薬品・化学品・食品などの天然原料を海外から輸入し、国内メーカーへ販売する事業を展開しており、食品分野ではメキシコ産ウチワサボテンの茎および 果実の加工品を扱い、国内での汎用・販売に注力しています。
参考. サボテンの利活用を推進する意義(国内外における課題とサボテンの貢献)
サボテンの活用は気候変動、農業従事者の減少と高齢化、農作放棄地の拡大等、農林水産業・食品産業における課題の解決に貢献する。以下に具体的事例を列記する。
- 地球温暖化・世界人口の増加:世界の気温が21世紀末には最大2.6〜4.8℃上昇し、作物の結実阻害と品質低下、病虫害の大量発生を招く(政府間パネルIPCC予測)。2050年には世界人口は約100億人に達し、食料増産(現在の1.6倍)の必要性が生じる。
→サボテンは40℃を越える高温下・乾燥~多雨環境で生育可能であり、地球温暖化に対応できる。世界30ヶ国で食材として利用されており、2017年には国連食糧農業機関(FAO)が「サボテンが世界の食料危機を救う作物になりうる」との見解を表明(食料として国際的な位置づけ)。 - 我が国における農地面積の減少、農業者の高齢化:農地面積は最大であった 1961年に比べて約172万ha減少し、一方で耕作放棄地面積は増加している。
→サボテンは種子ではなく成熟茎節から栄養繁殖するため、毎年播種する必要がない(生産管理の軽減)。また農機や施設が不要で初期投資が安く、かつ省力的な栽培が可能であり、高齢化が進む地域での栽培も可能である(荒廃農地・耕作放棄地の再活用)。 - 我が国の食料自給率の長期的低下傾向:農林水産省統計2021年度ではカロリーベースで38%生産額ベースで69%、飼料自給率25%。
→サボテンは過酷な条件で栽培できる有用な野菜・飼料の候補となる(農産物自給率向上)。 - 化学農薬および化学肥料の使用量低減。
→作物栽培には病虫害防除のための農薬が不可欠だが、我が国では病害虫によるサボテンの被害はほとんど報告されておらず、化学農薬の散布をあまり必要としない。また低栄養土や岩場でも栽培が可能であり、化学肥料を施す必要がない(化学農薬と化学肥料の使用量削減)。 - 農林水産業の CO2ゼロエミッション化の実現
→荒廃農地・耕作放棄地の再活用によるCO2吸収の増加が可能。ウチワサボテンは5m以上に生育しバイオマスが大きい。またCO2吸収量はスギやヒノキと比較しても高く、森林火災のリスクが非常に低い。さらに乾燥地だけでなくカンボジア等の多雨地域でも旺盛に生育できる。
本学の問い合わせ先
(当事業について)
前島正義 中部大学 副学長(応用生物学部 応用生物化学科 教授)
TEL:0568-51-6109
E-mail:maeshima@isc.chubu.ac.jp
(報道について)
中部大学 学園広報部 広報課
TEL:0568-51-7638(直通)
E-mail:cuinfo@office.chubu.ac.jp