細菌学、衛生学が専門
野生動物の保全のための衛生学・栄養生理学の研究
プロフィール
土田 さやか(ツチダ サヤカ)先生。京都府立大学大学院生命環境科学研究科応用生命科学専攻博士後期課程修了。博士(農学)。在学中から理化学研究所微生物材料開発室 (JCM)研修生となり、その後、京都府立大学学術研究員、京都府立大学特任講師を経て2018年に中部大学に着任。応用生物学部講師。
愛媛県生まれ。幼い頃は兄弟と昆虫採集や、魚釣りをして過ごす。好きな食べ物は辛いもの。料理が趣味で、世界各国のスパイスを使い、和食と組み合わせてアレンジをすることも。
土田先生を Close Up!
先生の研究内容
「動物の腸内細菌は宿主とともに進化し、食べ物の消化や免疫の活性化など生存に必要不可欠なものとして身体の一部となっています。野生動物にも、その動物に特徴的な『共生腸内細菌』が存在しており、われわれ人間であればお腹をこわしてしまうような、野生下の食べ物に含まれる反栄養素(栄養素の吸収を妨げる物質)や毒素を分解して無毒化し、消化しています。そのような野生動物の持つ腸内細菌の有用な性質に着目してプロバイオティクスを開発し、ライチョウなどの希少動物の保全に役立つ腸内細菌研究を行っています。この研究は、類縁の家畜種やペットなどの保健にも役立つのではないかと期待されています。
『野生動物の腸内細菌』の研究は珍しく、微生物学でも新しい分野です。自分で工夫して進めていく研究の過程はとてもワクワクしますし、新しい結果が得られる喜びは非常に大きいです」
研究を始めたきっかけ
「学部生の頃、実験動物として研究室で飼育されていたチンチラの腸内細菌を調べたことがきっかけで、動物の腸内細菌について興味を持ちました。修士課程の頃、研究生をしていた理化学研究所微生物材料開発室では、大学で行っていた培養法などの手技とは異なる分子生物学・遺伝子解析を学びましたが、動物本来の腸内細菌や宿主と微生物の共生関係は『野生動物』を研究しないと分からないのではないかと考えました。そこで博士後期課程では京都府立大学で『野生動物の腸内細菌』を研究していた牛田一成教授(現 環境生物科学科)の研究室に移って研究を進めました。博士課程が修了した後も、『もう少し研究すればその先がわかるかもしれない』という気持ちで研究を継続しています」
伊藤早苗賞を受賞した「野生動物の保全のための衛生学・栄養生理学」
「2021年7月の伊藤早苗賞の受賞は、とてもうれしかったです。私の研究は、サンプリングの時はフィールドに出て動物観察をしますが、糞便を採取した後は研究室でとても地味な作業を進めるので、すぐに日の目を見る研究分野ではありません。そのため『もっと知りたい』という気持ちで地道に続けてきた成果を評価していただいたことが、とてもありがたかったです」
先生の学生時代
「学部3・4年生の頃は、実験動物を研究する研究室に所属し、授業後はほぼ毎日研究室にいました。大学は単科大学で人数も少なかったため学生みんなと仲が良く、研究室で友人や先輩と話すのがとても楽しかったです。大学院に進学するか迷っていた際、当時理化学研究所微生物材料開発室室長だった辨野義己先生(現:独立行政法人理化学研究所イノベーション推進センター特別招聘研究員)の講演会で、先生の研究方法に興味を持ちました。友人の後押しもあり、その後の懇親会で辨野先生とお話をさせていただき、これがきっかけで大学院に進学し、理化学研究所微生物材料開発室の研修生になりました。同開発室には周りに学生がおらず、研究者ばかりの中で2年間過ごしましたが、最新の研究や研究手法に触れることができました。博士後期課程は京都府立大学に進学し、本格的に野生動物の腸内細菌の研究を行いました。それまでは実験動物を相手にしていたので実験室のみで研究していましたが、博士後期課程以降は野生動物の糞便採取のために、主に国内外の山岳地やアフリカの森林などに出掛けています。ゴリラやライチョウ、レッサースローロリスなどの飼育希少動物の腸内細菌研究も行っているので、動物園にもサンプリングに出掛けています」
中央アフリカのガボン共和国にあるムカラバ・ドゥドゥ国立公園で野生ニシローランドゴリラの糞便を採取
真冬のライチョウの腸内細菌調査で、ライチョウの糞便を採取
メッセージ
「一生はとても長いので、『ずっとやっていられる』ことを見つけることが大事だと思います。『ずっとやっていられる』ことは『好き』なことだけではなく、『嫌いじゃない』ことから始まることもあります。『好き』を見つけることは難しいですが『嫌いじゃない』ことは見つけやすいですし、成長するための努力もできると思います。学生時代は研究内容だけではなく、他愛ないものでも素直に質問して、議論してみてください。さまざまな分野のエキスパートが集まっている場所で、議論しないのはもったいないですよ。得た知識は未来の宝物になります。いつでも気軽に研究室を訪ねてみてください」