2025年度
【第41回創発セミナー】「脳疾患研究への数理的アプローチ」 日時: 2025年5月15日(木) 15:30~ 17:00 講師: 塚田 啓道(中部大学AI数理データサイエンスセンター、創発学術院 准教授、専門:計算論的神経科学) 概要: 本講演では、脳疾患の理解に向けた数理的アプローチについて、仮説駆動型およびデータ駆動型の両面から紹介します。前半では、レビー小体型認知症の代表的な症状である視覚幻覚に着目し、その発生過程を非線形力学系の観点から数理モデル化した研究を紹介します。後半では、マーモセットの拡散MRI、機能MRI、遺伝子発現データを統合した数理モデルの構築を通じて、疾患の早期発見や進行メカニズムの理解に向けたデータ駆動型のアプローチを紹介します。 これらの研究を通じて、数理科学が脳疾患の病態解明および医学の発展にどのように貢献し得るかを考察します。 |
2024年度
【第40回創発セミナー】「人間とチンパンジーの笑顔は何がちがう?」 日時: 2025年2月4日(火) 15:30~ 17:00 講師: 川上 文人(中部大学人文学部心理学科、創発学術院 准教授、専門:発達心理学) 概要: あなたは昨日,どのようなときに笑いましたか?家族の冗談を聞いたとき,おいしいものを食べたとき,友人の笑顔をみたときでしょうか。多くの場合,笑顔といわれてイメージするのは楽しい場面ですが,それだけとは限らないのではないでしょうか。私たちは何かに失敗したときや困ったときにも笑顔をみせることがあります。では,進化の隣人であるチンパンジーはどのようなときに笑うのでしょうか。人間の赤ちゃんや子ども,チンパンジーの観察を通じて,チンパンジーの笑顔が人間の笑顔とどこが似ていてどこが違うのかを調べることから,人間の笑顔の特徴を探っていきます。 |
【第39回創発セミナー】「ナノ世界を可視化する放射光科学 ― 基礎から最先端まで ―」 日時: 2024年12月16日(月) 15:30~ 17:00 講師: 雨宮 慶幸(公益財団法人高輝度光科学研究センター 理事長、東京大学 名誉教授、専門:放射光科学、光科学、応用物理) 概要: 私達は光を通して物(物質)を見ることができます。人間が目で見ることのできる光は可視光と呼ばれその波長は400〜800 nmですが、可視光の1000分の1以下の短い波長を持つ光、X線、を用いると、物質中の目に見えないナノ世界(原子・分子の世界)を見ることができます。すなわち、目に見えないX線を使うと目に見えないナノ世界を可視化できます。ナノ世界を可視化できると、物質中の原子・分子が空間的にどのように配列し、動いているのか、また原子・分子同士が結合しているエネルギーの大きさ、が分かります。そして、ナノ世界の配列、動き、エネルギーが、物質の性質(物性)を決定づけています。例えば、ダイヤモンドと鉛筆の芯は共に炭素原子だけからできていますが、空間的な配列が異なるため、全く異なった物性を示します。 19世紀末にレントゲンによって発見されたX線は、これまで物質科学や生命科学に多大な貢献をなしてきました。遺伝を司るDNAが二重らせん構造であることは、ワトソン・クリックによってX線回折実験を通して解明されました。 X 線に関わる技術の発展は目覚ましく、特に1980年以降、円形加速器から発生する放射光X線と呼ばれるX線が出現し、その輝度(明るさ)が桁違いに大きくなりました。さらに21世紀に入り、直線加速器を用いたX線自由電子レーザーが実現し、原子・分子の高速な動きも観察できるようになりました。それに伴い、放射光X線を用いる放射光科学は、物質、材料、生命、地球、エネルギー等の自然科学の広い分野において、また、産業応用の分野において、活発に利用されるようになり、現在では、なくてはならない基盤的かつ先端的研究技術になっています。 日常生活における「正しく見ることの大切さ」、「見ることとは何か」に触れ、放射光科学における基礎から最先端応用例まで紹介します。 |
【第38回創発セミナー】「生きものの知性を探る旅 : 複雑環境における粘菌の賢い行動」 日時: 2024年5月1日(水)15:30~17:00 講師: 中垣 俊之(北海道大学電子科学研究所 教授、中部大学創発学術院 客員教授、専門:原生生物行動学、物理エソロジー) 概要: 「生きものが知的であるとは一体どういうことだろうか?」という疑問について、粘菌という単細胞生物の振る舞いを見ながら、なるべく根源的なところを見てみようとした研究を紹介します。「知的」といってるのに、「単細胞生物」を対象としていることが、すでに問題提起的です。「単細胞」という言葉にはあまり賢くないという意味がありますが、どうもそうとは言い切れないようです。 知的というと、まずはヒトの能力を思うのがふつうです。難しい試験問題が解けたり、味わい深い小説が書けたり、巷の知能テストで高いスコアをとったりする能力を思い浮かべるのではないでしょうか。そのような能力が積み重なった先に、宇宙探査 やスマートフォンなどの技術があり、また国を統べる法体系や国際連合のような国際政治があります。まさにヒトの知性の象徴でしょう。 一方で、そのような高度な技術をささえる工業製品の製造の現場では、日々立ちはだかる問題を克服したり回避したりしていますし、また法律の立案や政治交渉の現場でも、関係者間の利益相反やジレンマを調整するべくよりよい解決案を模索していることでしょう。そこで発揮されるヒトの能力とは、「遭遇する状況がどんなにややこしくて困難であっても、未来に向かって生き抜いていけそうな行動がとれる」と言ってよいでしょう。 ひとまず、こんなふうに知性を捉えてみると、ヒト以外の生物がそれぞれの置かれた状況、つまり野外の生息環境で、どのような行動をとるかを調べることで、その知的レベルを推し量れることになります。実際、野外環境は多くの要因が空間的にも時間的にも変動する非常にややこしい状況といえます。生物は、そのような状況で生き抜くための行動をとらなくてはいけません。 この考えをあらゆる生物に適用していくと、いちばんシンプルなものとして単細胞生物の行動に行き着きます。驚くべきことに、一〇〇年ほど前の時代を代表する生物学者たちは、すでに単細胞生物の行動に特段の関心を持っていました。水中を泳ぐゾウリムシや水底を這い回るアメーバだって、同じ刺激に対していつも同じ反応を返すだけの単純な機械では決してないことを発見していました。単細胞生物の意味ありげな行動は、すでに見つかっていたのです。 この話では、この一〇〇年前の研究に再び焦点をあてます。しばらく忘れ去られてきたこの古典的な研究を引き継いで、現在の科学的概念や手法によって私たちなりに再検討してきたことをご紹介いたします。 参考文献:中垣俊之、「考える粘菌 -生物の知の根源を探る-」ヤマケイ文庫(山と渓谷社)2024年1月 |