2026年6月12日

  • メディア/プレスリリース

植物ホルモン「サイトカイニン」の長距離輸送の新たなメカニズムを解明—植物の離れた器官の成長を人為的に操作することが可能に—(鈴木孝征教授ら)

島根大学大学院自然科学研究科博士後期課程の門田宏太(現 岡山大学 資源植物科学研究所 特別研究員PD)、島根大学総合科学研究支援センターの蜂谷卓士准教授、中川強教授らの研究グループは、中部大学の鈴木孝征教授、理化学研究所の小嶋美紀子技師、竹林裕美子テクニカルスタッフⅠ、東京大学の神谷岳洋准教授、岡山大学の木羽隆敏教授、名古屋大学の榊原均教授との共同研究により、植物ホルモンのサイトカイニン1)の受容体2)AHK3遺伝子が、根から葉へのサイトカイニンの長距離輸送を調節することを発見しました。
根で作られたサイトカイニンは、道管3)を介して葉まで運ばれ、葉の成長を促進する作用をもつことが知られています。本研究では、接ぎ木技術4)を用いて、モデル植物のシロイヌナズナ5)の根のみでAHK3遺伝子の機能を改変したことで、根や道管液中のサイトカイニン濃度が大きく増加することを発見しました。その結果、離れた器官である葉のサイトカイニン応答性が高まり、葉の成長を人為的に増加させることに成功しました。

本研究成果は、国際学術誌「Plant and Cell Physiology」に6月12日 09:01 JST(6月12日00:01 UTC)にオンライン公開されます。

本研究は、科学研究費補助金・特別研究員奨励費[JP24KJ1709]、科学研究費補助金・基盤研究(C)[JP23K04978、JP20K05771]、科学研究費補助金・基盤研究(B)[JP21H02087]、JST次世代研究者挑戦的研究プログラム[JPMJSP2155]の支援のもとで行われました。

リーリス文書

本件のポイント

  • 根から葉へのサイトカイニンの長距離輸送を調節する遺伝子「AHK3」を発見した。
  • 接ぎ木技術を用いて、根のみでAHK3遺伝子の機能を低下させたことで、離れた器官の葉の成長が増加した。
  • AHK3遺伝子は作物増産における有力なターゲットになることが期待される。

研究の背景

植物は、水や栄養塩を吸収する「根」と光合成を行う「葉」のような複数の器官から成り立っています。日々変動する過酷な環境下で、植物が生き延びるためには、根と葉における器官間での密接な情報のやりとりが必要とされます。一方で、動物とは異なり、植物には神経系や循環器系がありません。そのため、植物は維管束と呼ばれる根と葉をつなぐ通路を介して、シグナル分子と呼ばれる物質を移動させることで、離れた器官間で情報のやりとりを可能としています。本研究では、そのようなシグナル分子の一つである植物ホルモンの「サイトカイニン」に着目しました。サイトカイニンは窒素栄養状態が良好なときに、根で多く作られるとともに、道管を介して、葉まで運ばれ、葉の成長を促進する作用をもつことが知られています。そのため、サイトカイニンは、根の窒素栄養状態を葉に知らせるシグナル分子として働くと考えられています。一方で、根から葉へのサイトカイニンの長距離輸送を調節するメカニズムのうち、サイトカイニンの輸送量を抑える、いわゆるブレーキのようなメカニズムに関する理解はほとんど進んでいませんでした。そこで、共同研究グループは、サイトカイニンの根から葉への輸送量を抑える働きをもつ遺伝子を探索し、そのメカニズムを解明することに挑みました。

研究手法と成果

共同研究グループは、先行研究や遺伝子共発現ネットワーク解析から、モデル植物のシロイヌナズナにおいて、サイトカイニンの根から葉への輸送量を抑える遺伝子の候補として「サイトカイニン受容体AHK3遺伝子」を見出しました。一方で、AHK3遺伝子は葉にも存在し、働くことから、AHK3遺伝子の機能が消失したahk3変異株を用いた解析では、根と葉のどちらのAHK3遺伝子の欠損の影響であるかを区別して評価することができません。そこで、接ぎ木技術を用いて、根のみでAHK3遺伝子の機能を消失させた接ぎ木変異株(接ぎ木ahk3変異株)を作製し、接ぎ木野生株と比較することで、根に存在するAHK3遺伝子が、根から葉へのサイトカイニンの長距離輸送にどのような影響を及ぼしているかの解析を行いました。

接ぎ木野生株と接ぎ木ahk3変異株について、根と道管液中のサイトカイニンレベルを分析したところ、接ぎ木野生株と比べて、接ぎ木ahk3変異株では、根と道管液ともにサイトカイニン濃度が大きく増加していました(図1A)。次に、これらの接ぎ木植物にサイトカイニン応答性レポーターTCSn:GFP遺伝子を導入し、葉のサイトカイニン応答性を可視化したところ、レポーターを導入した接ぎ木野生株と比べて、接ぎ木ahk3変異株では、葉のサイトカイニン応答性が増加していました(図1B)。さらに、これらの接ぎ木植物の成長を測定したところ、接ぎ木野生株と比べて、接ぎ木ahk3変異株では、葉面積が増加していました(図1C–D)。加えて、これらの接ぎ木植物の根において、道管へのサイトカイニンの積み込みに寄与する輸送体ABCG14遺伝子の機能を消失させたところ、接ぎ木ahk3変異株でみられた葉の成長促進がほとんどなくなりました(図1D)。

以上のことから、根におけるAHK3遺伝子の機能が消失したシロイヌナズナでは、根で作られたサイトカイニンの量を減らすための機能が低下しており、道管に運ばれるサイトカイニン量が増えたことで、離れた器官である葉のサイトカイニン応答性や成長が増加した可能性が示唆されました。そのため、根に存在するAHK3遺伝子は、根から葉へのサイトカイニンの輸送量を抑える働きをもつ可能性が考えられました。

今後の展望

この研究によって、根から葉へのサイトカイニンの長距離輸送を調節するメカニズムの一端が明らかになりました。さらに、接ぎ木技術を用いて、根のみでAHK3遺伝子の機能を低下させたことで、離れた器官である葉の成長を人為的に増加させることに成功しました。今後は、本研究成果を作物の接ぎ木苗で応用することで、台木の遺伝子操作のみで、穂木の性質を高めることが可能となり、かつ穂木は味の良い品種を維持したような優れた接ぎ木苗の開発につながることが期待されます。

植物ホルモン「サイトカイニン」の長距離輸送の新たなメカニズムを解明

用語解説

1)サイトカイニン:成長や発達、ストレスや栄養応答のような植物の多様な生理プロセスの調節に関わる植物ホルモンの一つである。シロイヌナズナでは、イソペンテニル型とトランスゼアチン型のサイトカイニンが存在し、後者は特に根で多く作られ、道管を介して葉に運ばれ、葉の成長を促進する作用をもつ。

2)サイトカイニン受容体:サイトカイニンは、細胞膜や小胞体膜に存在するサイトカイニン受容体に感知されると、そのシグナルがリン酸リレーを介して転写因子型レスポンスレギュレーターへと伝達され、サイトカイニン応答性遺伝子の発現が調節される。シロイヌナズナには、AHK2、AHK3、AHK4/CRE1の3種類のサイトカイニン受容体遺伝子が存在する。

3)道管:植物体内における物質輸送を行う内部組織であり、水、栄養塩、植物ホルモン、ペプチドホルモンのような多様な物質の輸送が行われている。

4)接ぎ木技術:異なる植物体を人為的に作った切断面でつなぎ合わせることで、新たな植物体を作製する技術のこと。本研究では、無菌的に5日齢のシロイヌナズナの胚軸部分を切断し、ピンセットを用いてつなぎ合わせた。習得が難しい技術の一つとして知られている。

5)シロイヌナズナ:アブラナ科の植物であり、植物研究におけるモデル生物(普遍的な生命現象を明らかにするために使われる代表的な生物)の一つである。利点として、遺伝子情報や材料が整備されていること、世代時間が短いこと、実験室で扱いやすいこと、などが挙げられる。

論文情報

論文タイトル

Cytokinin receptor AHK3 influences leaf size by modulating trans-zeatin-type cytokinin levels in xylem

著者

門田宏太1, 鈴木孝征2, 小嶋美紀子3, 竹林裕美子3, 神谷岳洋4, 木羽隆敏5, 榊原均6, 中川強7, 蜂谷卓士7

1:島根大学 大学院自然科学研究科
2:中部大学 大学院応用生物学研究科
3:理化学研究所 環境資源科学研究センター
4:東京大学 大学院農学生命科学研究科
5:岡山大学 学術研究院先鋭研究領域(資源植物科学研究所)
6:名古屋大学 大学院生命農学研究科
7:島根大学 総合科学研究支援センター

掲載誌

Plant and Cell Physiology

本件の連絡先

研究に関すること
中部大学 大学院応用生物学研究科 教授 鈴木孝征
E-mail: takamasa.suzuki[at]fsc.chubu.ac.jp ※アドレスの[at]は@に変更してください。
報道に関すること
中部大学 入試・広報センター
TEL:0568-51-5541
E-mail: chubu-info[at]fsc.chubu.ac.jp ※アドレスの[at]は@に変更してください。