2026年7月15日

  • メディア/プレスリリース

日本で初めて知的障害のある子どもや若者へのサーフセラピーの効果を確認— サーフィンが、生活の質と心理的幸福感を高める可能性が明らかに— (津田聡子准教授ら)

1. 研究成果のポイント

  • 知的障害のある子どもや若者を対象としたサーフセラピー(注1)プログラムを日本で初めて試行した。
  • 評価対象者6名は、6週間(週1回)のプログラムのほとんどに積極的に参加した。
  • 保護者が子どもに代わって評価したQOL(生活の質)の調査票「KIDSCREEN-27(注2)」によれば、プログラム終了1か月後に健康関連QOL全体と心理的幸福感の改善が示された。

2. 発表概要

障害のある子どもや若者が、地域で安心して参加できる活動の機会を確保することは、心身の健康や社会参加を支えるうえで重要である。一方で、知的障害や発達障害のある子どもや若者が、海や自然環境を活用した活動に安全に参加できるための実践モデルや研究知見は、日本では極めて少ない。「サーフセラピー」は、サーフィンや海での活動を治療的・支援的に活用するプログラムで、海外では子どもや若者の気分、自信、社会的交流、身体活動などへの効果が報告されている。しかし、日本においては、知的障害のある子どもや若者を対象としたサーフセラピーの実施可能性と安全性を検討した研究は報告されていなかった。

今回、中部大学 生命健康科学部 作業療法学科の津田聡子准教授は、国立成育医療研究センター女性の健康政策研究部の窪田和巳室長、名古屋市立大学 医学部保健医療学科の塩津裕康講師とともに、NPO 法人The SCC Surf Therapy Japan(2025年4月に設立)の運営協力の下、全6回のサーフセラピープログラムを、知的障害のある自閉スペクトラム症(ASD)(注3)やダウン症(注4)の子どもと若者を対象に試行し効果検証を行った。

本研究では、プログラムへの参加状況、継続率、データ取得状況、安全性を確認するとともに、プログラム前、終了後、1か月後の3時点の健康関連QOLの変化を、保護者代理評価によるKIDSCREEN-27を用いて検討した。研究には、7歳から21 歳までの8名(ダウン症6名、自閉スペクトラム症2名)が参加し全員に知的障害があった。このうち6名を分析対象とした。その結果、KIDSCREEN-27の総得点(全般的健康)は、プログラム前の平均81.5±9.2点から1か月後には106.5±13.0点へ上昇し、統計的に有意な改善が認められた。下位尺度では、心理的幸福感が、プログラム前の平均23.0±1.9点から1か月後には26.5±2.2点へ上昇し、有意な改善が示された。これらの結果は、知的障害のある子どもや若者に対するサーフセラピーが、健康関連QOLに肯定的な影響の可能性を示すものである。今回の研究成果は、7月13日付(中央ヨーロッパ夏時間)で国際的な神経発達障害の専門誌Advances in Neurodevelopmental Disorders に掲載された。

 

表1. KIDSCREEN 下位尺度および総得点(健康関連QOL全体)の3時点における変化(n=6)

下位尺度介入前 M(SD)介入後 M(SD)1か月後 M(SD)Friedman χ²(2)p
身体的幸福感14.3(2.3)16.0(1.1)15.0(2.8)4.080.12
心理的幸福感23.0(1.9)25.8(4.9)26.5(2.2)6.950.03*
親子関係と家庭環境21.0(3.0)22.8(4.5)23.3(4.4)4.080.12
社会的支援と仲間10.8(3.7)9.2(4.8)8.5(4.7)1.800.40
学校12.3(2.9)13.1(3.1)9.2(4.2)2.640.25
総得点(全般的健康)81.5(9.2)87.0(12.7)106.5(13.0)12.00<0.01**
  1. 注)*p<0.05**p<0.01 で特に有意な変化があったとみなされる

ただし、今回は予備段階の調査で参加者数が少なく、対照群を置かない単群の予備的研究である。そのため、今回の結果だけでサーフセラピーの効果を断定するには限界がある。本研究チームは今後、より多くの参加者を対象とした比較試験や、保護者・教員・本人からの複数の情報源を用いた評価、睡眠や身体活動などの客観的指標を含めた検証実験の実施を予定している。

本研究は、日本における障害のある子ども・若者の地域参加、インクルーシブな自然体験、そして海を活用した新しい支援モデルの発展に向けた基礎的知見となることが期待される。

3. 論文の情報

雑誌名:Advances in Neurodevelopmental Disorders
論文タイトル:Feasibility of an Inclusive, Co-designed Surf Therapy Program for Children and Adolescents with Intellectual Disabilities in Japan: A Pilot Study
著者:Satoko Tsuda, Kazumi Kubota, Hiroyasu Shiozu *Co-first Author
DOI:10.1007/s41252-026-00507-y
URL:https://doi.org/10.1007/s41252-026-00507-y

4. 用語解説

(注1)サーフセラピー(Surf Therapy)

米カリフォルニア州に本部のある国際サーフセラピー機構(International Surf Therapy Organization:ISTO)により、「心理的・身体的・心理社会的ウェルビーイングを促進するために、意図的かつ包括的に、対象者に合わせた科学的根拠に基づく治療的構造を提供する手段としてサーフィンを用いること」と定義されている治療法。競技としてのサーフィン技術の習得を目的とせず、参加者の特性やニーズに合わせ、安全に海や波と関わる体験を通して、心身の健康、自己効力感、社会参加、心理的ウェルビーイングの向上を目指す構造化された支援プログラムである。現在、世界の約20か国・130以上の団体で実施されている。

(注2)KIDSCREEN-27

KIDSCREENは、2001~2004年にドイツの研究グループが中心となって欧州13か国(フランス、ドイツ、ギリシャ、オランダ、英国など)の共同研究により開発された健康関連QOL評価の国際的に活用されている調査票である。質問数が10問、27問、52問の3種類の調査票があり、本研究で用いたKIDSCREEN-27では、身体的幸福感、心理的幸福感、親子関係と家庭環境、社会的支援と仲間、学校の5領域から構成されている。

(注3)自閉スペクトラム症(ASD)

社会的なコミュニケーションや対人関係の困難さ、特定の物事への関心や同じ行動の繰り返しなどを特徴とする神経発達症の1つである。特性の現れ方は一人ひとり異なり、感覚の過敏さや鈍感さ、学習や日常生活上の困難を伴うこともある。ASDのある人の割合は調査方法や対象により異なるが、近年は比較的多くみられる神経発達症の一つとされている。

(注4)ダウン症

21番目の染色体が通常より1本多いことなどにより生じる先天的な状態である。筋肉の緊張が低いことや、知的発達がゆるやかであることが多いが、発達の経過や必要な支援には個人差がある。心疾患などの合併症を伴う場合もある一方で、医療、療育、教育、地域支援の進展により、学校生活や社会生活に参加する人も増えている。

5. お問い合わせ先

【研究内容について】
津田 聡子 中部大学 生命健康科学部 作業療法学科 准教授
電子メール:s-tsuda[at]fsc.chubu.ac.jp ※アドレスの[at]は@に変更してください。
電話:0568-51-9436(直通)
【報道担当】
中部大学 入試・広報センター
電子メール:chubu-info[at]fsc.chubu.ac.jp ※アドレスの[at]は@に変更してください。
電話:0568-51-5541