子どもたちが安心してのびのび成長できる環境を目指して
プロフィール
津田 聡子先生。愛知県出身。名古屋市立大学看護学部 卒業。神戸大学大学院 保健学研究科 博士後期課程修了。博士(保健学)。宝塚大学・聖隷クリストファー大学などの教員を経て、2021年に中部大学に着任。現在は、生命健康科学部 作業療法学科 准教授。保健看護学科を兼務。
最近、サーフィンによって心身の健康の向上を図る「サーフセラピー」に関する研究に力を入れており、休日はフィールドワークを兼ねて鎌倉の海に頻繁に赴いている。小学校高学年の子どもと一緒にサーフィンを楽しむことも。
先生の研究内容

「私の研究の出発点は、大学院で所属していた研究室がテーマに掲げていた『障がいのある子どもとその家族のためのより良い環境づくり』です。現在もそのテーマを土台に、学校保健・小児保健の分野で、子どもが安心して生活できるための支援について研究しています。
具体的には、障害のある子どもへの健康支援、性教育や月経教育、医療的ケア児の就学支援、そして海や自然環境を活用したサーフセラピー研究などに取り組んでいます。
特に障がいのある子どもの月経教育では、人形を使った具体的な教育プログラムを開発してきました。月経が始まる前の初経前教育として、スモールステップで一つ一つの動作を確認し、視覚的支援を活用することで、子どもたちが自分でナプキン交換ができるようになる効果的なプログラムです。
私はこれまで、小児外科の看護師、中学校・高等学校の養護教諭として、子どもたちの心と体の健康に関わってきました。その経験から、子どもの健康は本人だけでなく、家庭・学校・地域など、その子を取り巻く環境と深く関係していると感じています。
研究の魅力は、子どもたちの小さな困りごとや変化を丁寧に見つめ、それをより良い支援や社会の仕組みに変えていけるところです。『困っている子どもを支える』だけでなく、『困りごとが生まれにくい環境や Well-being(身体的・精神的・社会的に満たされた状態)の向上を目指す』ことを大切にしています」
研究を始めたきっかけ

「私は、高校の保健体育の教員であった父、スポーツ万能な母のもと、4人兄弟の2番目として育ちました。幼少期から体を動かすことが日常で、ソフトボール、水泳、バスケットボール、陸上など、さまざまなスポーツに取り組んできました。
中学の時の陸上部の大会で、後十字靱(じん)帯を損傷したことをきっかけに、医療の道に関心を持つようになりました。この時、病院で対応してくれた看護師がすごく優しかったことや、医師の姿がかっこいいと思ったことが印象に残っています。自分自身が体の痛みや思うように動けない経験をしたことで、健康であることの大切さや、医療者の支えの大きさを実感しました。
大学卒業後は、小児外科の看護師として、病気や手術を経験する子どもたちと関わりました。さらに、教員だった父の影響もあってか、教育業界への道も魅力的に感じ、中学校・高等学校の養護教諭として勤務し、思春期の子どもたちの心と体の健康に関わってきました。
兵庫県の中学校で養護教諭として勤めていた時、母校の大学の先生から大学教員にならないかと声がかかりました。
養護教諭として働くことが楽しかったのでとても迷いましたが、大学教員は働きながら大学院に通うことができることや、改めて大学に通って研究をしてみたいという気持ちがあったことなどを理由に、大学教員の道を選びました」
先生の学生時代
「学部生時代は、ほとんど毎日、看護学の勉強や実習に追われていました。覚えることも多く、決して楽な学生生活ではありませんでしたが、人の命や健康に関わる専門職を目指す上で、とても大切な時間だったと思います。正直に言うと、そんなに真面目な学生ではありませんでしたけど(笑)。ただ、国家試験という共通の目標に向かって、みんなで乗り越えようという雰囲気があり、夜遅くまで友人と大学に残って勉強したりしました。苦楽を共にした友人との関係は今もずっと続いており、私の財産にもなっています。
一方で、アルバイトでは家庭教師や塾講師をしていました。自分が通っていた塾の塾長から声をかけてもらって、大学に合格してすぐに働き始めました。
子どもたちに勉強を教える中で、『どう伝えたら分かりやすいか』『その子がつまずいているところはどこか』を考えることに楽しさを感じるようになりました。今振り返ると、看護学を学びながら、人に教えることや、生徒一人一人に合わせた関わり方を考えたことがその後、養護教諭や大学教員への道につながる大きな経験でした」


中部大学での思い出のエピソード
「中部大学で印象に残っているのは、作業療法学科のゼミ生との何気ないディスカッションです。ある時、ゼミ生が『神経発達症の子どもたちが、のびのびと身体を動かせる環境は本当に少ないですね』『標準的な発達の子どもたちに合わせるための場面が多いですね』と発言しました。その言葉を聞いて、私自身が以前からずっと取り組みたいと思っていた、自然環境を活用した研究を本格的に始めようと一念発起しました。
子どもたちが評価されたり、比べられたりするのではなく、自分のペースで身体を動かし、安心して挑戦できる場を作りたいと学生時代から考えていたことを、ゼミのディスカッションによって再認識させられました。
学生との何気ない会話が、新しい研究のきっかけになることもあります。中部大学は、学生と教員が一緒に考えながら、新しい実践や研究を生み出せる場所だと感じています」



サーフセラピー研究について
「現在、海や自然環境を活用したケアの研究と実践に力を入れています。中でも最も力を入れているのがサーフセラピー研究です。
サーフセラピーは、サーフィンを通じて心身の健康を図るもので、心理的幸福感やQOL(Quality of Life)を向上させる効果があることが分かっています。日本ではまだ『サーフセラピー』という言葉はあまり広く知られていませんが、海外では、心の健康や発達支援、社会的孤立の予防などに活用されている実践的な介入方法です。
障がいのある子どもたちやトラウマを抱える人たちを対象に、サーフセラピーのプログラム作りができないかと研究を進める中で、神奈川県の鎌倉に『Nami-nications』という団体があることを知りました。この団体は、まさに私がやろうとしている研究を体現していて、障がいのある子どもや大人に対してボランティアを集めて波に乗せるパラサーフィン体験をやっていました。
居ても立ってもいられずすぐに連絡したところ、NPO法人「The Scc Surf Therapy Japan」を設立するとのことで、研究のフィールドとして活用させていただけることになりました。
障がいのある子どもたちとのサーフセラピーは本当に楽しく、サーフィンを通してののびのびと体を動かしていている様子を見るたび、今後も研究に励んでいきたいと思えます」
日本で初めて知的障害のある子どもや若者へのサーフセラピーの効果を確認— サーフィンが、生活の質と心理的幸福感を高める可能性が明らかに— (津田聡子准教授ら)


メッセージ

「大学生活では、すぐに答えが出ないことや、自分に向いていることが分からなくなる時期もあると思います。しかし、その迷いや違和感も、将来につながる大切な学びです。
専門職を目指す上で、知識や技術を身につけることはもちろん大切ですが、『目の前の人を理解しようとする姿勢』を持ち続けることが何より重要だと思います。うまくできることだけが成長ではなく、気付くこと、考え直すこと、誰かに相談すること、そして自分自身を大切にすることも、すべて大切な力だと思います。
看護師、養護教諭、研究者、大学教員としてさまざまな現場を経験してきましたが、どの現場でも共通する大切なことは、人を一つの側面だけで見ないことだと思っています。その人の背景、暮らし、思い、環境を含めて理解しようとする姿勢は、どの専門職にも必要な力なのではないかとも思います。中部大学での学びを通して、自分の関心や強みに出会い、誰かの暮らしや人生を支える力を育てていってほしいと思います」
