ミュオン理工学研究センターとは
ミュオン理工学研究センターは、加速器で生成する「加速器ミュオン」と、宇宙から飛来する「宇宙線ミュオン」の双方を活用し、基礎物理学から社会実装までを見据えた教育・研究を推進する研究拠点です。
ミュオンは電子と同じ電荷を持ちながら約200倍の質量を持つ素粒子であり、その特異な性質から、物質科学、エネルギー科学、宇宙・地球科学など幅広い分野で新しい可能性を切り拓いています。
本センターでは、これらの研究を通じて、新しい学術・技術領域の創出を目指しています。
本センターの2つの研究部門
本センターでは、以下の2つの研究部門を中心に研究を推進しています。
ミュオン触媒フュージョン科学部門
粒子加速器で生成されるミュオンを利用し、ミュオン触媒フュージョンの基礎物理からエネルギー応用までを軸に、加速器ミュオンを活用した幅広い研究を推進しています。
宇宙線ミュオン科学部門
宇宙から飛来するミュオンを利用し、ミュオグラフィ、宇宙天気、地球・防災分野などへの応用研究を推進しています。
本センターでは、この新しい学術・技術領域を「ミュオニクス(Muonics)」と呼んでいます。

ミュオン触媒フュージョン
本センター ミュオン触媒フュージョン科学部門では、粒子加速器によって生成されるミュオンを用いた「ミュオン触媒フュージョン(Muon-Catalyzed Fusion; µCF)」の研究を推進しています。
負電荷を持つミュオンを重水素・三重水素に加えると、電子の代わりにミュオンが原子核を結び付け、極めて小さな「ミュオン分子」が形成されます。ミュオンは電子より約200倍重いため、原子核同士を非常に近い距離まで引き寄せることができ、その結果、低温条件でも核融合反応を誘起することが可能になります。核融合後に再放出されたミュオンは再び分子形成に関与し、触媒のように繰り返し反応を促進することから、「ミュオン触媒フュージョン」と呼ばれています。
µCFは、プラズマを高温で閉じ込める磁場核融合や、レーザーによって超高密度状態を実現する慣性核融合とは異なる、新しい核融合アプローチです(上図)。特に、ミュオン分子形成や共鳴状態などの量子力学的な現象が核融合効率を支配することから、基礎物理学とエネルギー科学が融合する学際研究領域として注目されています。
近年、中部大学を中心とする研究により、µCFにおいて重要な役割を果たす「共鳴ミュオン分子状態」の精密X線分光が実現し、長年未解明であった基礎過程の理解に重要な進展が得られました。これらの成果は、µCF研究を新たな段階へ押し上げるものとして期待されています。
現在、本センターでは、JSTムーンショット型研究開発事業(目標10)「革新的ミュオン触媒フュージョン技術の社会実装」を推進しています。本プロジェクトでは、理論と実験を統合し、将来の革新的核融合技術としてのµCFの実現可能性を探究しています。国内外の研究機関・企業との連携を通じて、基礎研究から社会実装まで一貫した研究開発を進めています。
本センターでは、未来のエネルギー技術の実現を目指し、革新的なµCF研究に取り組んでいます。
宇宙線ミュオン
ミュオン理工学研究センター 宇宙線ミュオン科学部門では、宇宙線ミュオンを用いた応用研究を行なっています。
宇宙線ミュオンは、高エネルギー銀河宇宙線が大気の原子核と反応することで作られ、エネルギーが高い相対論的な粒子であるため、多くが崩壊せず地上まで到達します。このようなミュオンを地上で観測することで、間接的にその親粒子である銀河宇宙線の方向を推定することができるのです。一方で、地上まで降ってくるミュオンの頻度は、1平方センチメートルに毎秒1個程度で決して多くありません。従ってこのような宇宙線ミュオンの応用を考えるときには、大面積の観測装置を用いて一度に沢山のミュオンを捕まえるか、あるいは長期間に亘る観測を行なう必要があります。
宇宙線ミュオン科学部門では、このような宇宙線ミュオン
の特性を利用して以下に示すような課題に挑戦しています。
(1) 宇宙天気(惑星間空間の解明)
(2) 地球大気科学(雷雲電場の透視)
(3) ミュオグラフィ
(1)は東京大学宇宙線研究所明野観測所、(1)・(2)はインド・タタ基礎研究所との共同研究として実施しています。
これらの共同研究を通じて、宇宙、地球環境、防災分野への応用研究を推進しています。