環境調和型薄膜材料研究室

お知らせ

    教授:山田直臣
    研究室:14号館5階
    専門分野:薄膜電子材料/固体化学
    趣味:ドライブ/読書

    研究キーワード

    薄膜合成/オプトエレクトロニクス材料/非従来型化合物半導体/化学結合論

    学べることは?

    非従来型の高性能なオプトエレクトロニクス材料の探索

    現在のオプトエレクトロニクス材料は優れた性能を示す一方で、枯渇が懸念される希少な元素が使われています。この状況は持続可能性の観点から大きな問題と考えられます。そこで我々は、ありふれた元素のみからなる、高機能かつ安全・安価なオプトエレクトロニクス材料を探索・開発しています。
    化学とオプトエレクトロニクスとは関係が薄いように感じるかもしれませんが、そんなことはありません。材料の性質は化学結合で決まるといっても過言ではありません。当研究室では、化学結合論に立脚した仮説を立て、実験や計算によって検証することで材料の探索・開発を行っています。最近では、材料探索や合成実験に機械学習などの情報科学を採り入れることにも取り組んでいます。
    卒業研究では、化学結合論に立脚した材料設計、薄膜合成法と評価、真空技術、オプトエレクトロニクスデバイスの作製と評価などについて学ぶことができます。

    研究室からのメッセージ

    専門知識と技術を習得することはもちろん、楽しく研究することをモットーとしています。元気で明るい研究室を目指しています。また、外部の大学・研究機関や企業との共同研究も積極的に行っています。これらを通して、幅広い知識と技術、コミュニケーション能力やプレゼンテーション能力も身につけてもらいたいと思います。
    研究開発は困難にぶつかることもありますが、一生懸命取り組むと自然に楽しくなってきます。私は学生時代に恩師から「研究とは自然との知恵比べ」と教わりました。その通りだと思っています。この楽しい知恵比べに参加したい方をお待ちしています。ぜひ、研究室を覗きにきてみてください。

    研究例

    1.超高真空を利用した薄膜合成

    薄膜合成には、超高真空をベースとしたスパッタリング法や分子線蒸着法と呼ばれる気相法を用います。気相法とは、薄膜の原料をプラズマや熱エネルギーによって気化し、基板上へ原料物質の薄膜を堆積させる方法です。気相法による薄膜形成は、現在のオプトエレクトロニクスにとって欠かせない技術です。図1に示す写真は、スパッタリング法による薄膜の合成中の様子です。幻想的なプラズマを見ることができます。

    2.大気中の薄膜合成

    上で紹介した真空を利用した気相法は、高品質かつ高純度の薄膜を再現良く作ることができるという長所がある一方、真空を作るのに長い時間が必要で、薄膜の形成速度が低いというコスト面の短所があります。当研究室では大気中で簡便に薄膜を作ることのできる薄膜合成法も用いています。現在は、ミストCVD(Chemical vapor deposition:化学気相堆積)法と呼ばれる手法で酸化物半導体薄膜を作製しています。ミストCVD法は、原料溶液を超音波で霧状(ミスト)にし、発生したミストをキャリアガスによって基板まで輸送し、基板上で化学反応させて薄膜を形成する方法です。図2の写真は、ミストCVD装置の成膜室とミストが発生している様子です。真空を利用した気相法の10倍以上の速さで薄膜を作ることができます。さらに、材料によっては真空を利用した気相法で作った薄膜に迫る品質の薄膜を作ることも可能です。

    <研究業績>

    [2-1] Yamada et al., Thin Solid Films 626, 46 (2017)

    3.酸化チタン系透明導電体とその応用

    図3の写真は、透明で電気の流れる薄膜、透明導電膜の写真です。ガラスのように透明なのに、金属のように電気を流す不思議な性質を持っています。ディスプレイやタッチパネル、太陽電池の透明な電極などに使われます。現在主流の透明導電膜の材料は、希少金属を主要成分としています。当研究室では、地殻中に豊富に存在するチタン(地殻中に10番目に多い元素)と酸素(地殻中に一番多い元素)からなる酸化チタンをベースとした透明導電膜を作る技術を有しています。酸化チタンは歯磨き粉や日焼け止め等に使われる安全な化合物です。最近では、酸化チタン系導電膜の化学的安定性に着目し、燃料電池セパレータの保護層として応用することにも取り組んでいます。

    <研究業績>

    [3-1] Yamada et al., Jpn. J. App. Phys. 46, 5275 (2007)
    [3-2] Hitosugi et al., Appl. Phys. Lett. 90, 212106 (2007).
    [3-3] Yamada et al., J. Appl. Phys. 105, 123702 (2009)
    [3-4] Hirose et al., Phys. Rev. B 79, 165108 (2009).
    [3-5] Yamada et al., Appl. Phys. Express 4, 045801 (2011).
    その他多数。

    4.ヨウ化銅系半導体の開発とその応用

    近年、銅とヨウ素からなるヨウ化銅が優れた特性を示す半導体であることを明らかにしてきました。ヨウ化銅は半導体としてほとんど注意が払われてこなかった物質です。一般に、優れた特性の半導体薄膜を合成するには高い温度(約1000 ℃)が必要です。対照的に、ヨウ化銅の薄膜は低い温度で合成しても非常に優れた特性を示します。その秘密は特殊な化学結合の様式にあります。化学結合論に基づいたオプトエレクトロニクス材料の探索・開発が成功した好例といえるでしょう。
    当研究室では、ヨウ化銅薄膜を使って電源が不要な新しい方式の紫外線センサーを作ることにも成功しています(図4)。最近では、銅・亜鉛・ヨウ素からなる三元系ヨウ化物が優れた発光材料になり得ることも明らかにしました(図5)。この研究は論文誌の表紙にも採択されました。現在は、この化合物を利用したLEDを作ることにチャレンジしています。

    図4:ヨウ化銅を用いた新方式の紫外線センサーの写真(上)とその断面の電子顕微鏡像(下)
    図5:新規三元系ヨウ化物が青色発光する様子

    <研究業績>

    [4-1] Yamada et al., Chem. Mater. 28, 4971 (2016).
    [4-2] Yamada et al., Adv. Electron. Mater. 3, 1700298 (2017).
    [4-3] Yamada et al., Phys. Status Solidi A 216, 1700782 (2018).
    [4-4] Yamada et al., Appl. Mater. Today 15, 153 (2019).
    [4-5] Yamada et al., Adv. Funct. Mater. 30, 2003096 (2020).
    [4-6] Yamada et al., J. Ceram. Soc. Jpn. 130, 331 (2022).

    5.三元系窒化物半導体の開発

    現在のLEDは窒化物半導体で作られています。LEDに使われる窒化物半導体も希少元素が主要な構成元素です。我々は、ありふれた元素を主要構成元素とする新しい窒化物半導体を開発することに取り組んでいます。これまでに、亜鉛・スズ系窒化物やマグネシウム・スズ系窒化物を開発してきました。なかでも、マグネシウム・スズ系窒化物は我々の研究グループが世界で初めて合成した化合物で、この研究も論文誌の表紙に採択されています。この物質は、イオン結合性のマグネシウム-窒素結合と共有結合性のスズ-窒素結合から構成されており、単位格子中に異なる種類の化学結合が混在する風変わりな化合物半導体です。
    マグネシウム・スズ系窒化物は、LEDの基幹材料である窒化ガリウム上にエピタキシャル成長という様式で積層させることができます(図6上)。エピタキシャル成長は半導体デバイスの製造には欠かせない技術です。さらに、このマグネシウム・スズ系窒化物は、室温付近で緑色発光を示すことを突き止めました(図6下)。現在のLEDには緑色発光の効率が極端に低い「グリーンギャップ問題」を抱えています。マグネシウム・スズ系窒化物はグリーンギャップ問題の解決に資する材料かもしれません。
    ごく最近、マグネシウム・スズ系窒化物の薄膜に超高圧(6万5千気圧)を印加しつつ熱処理をすると、組成を保持したまま結晶構造が変化する(相転移という)ことがわかってきました(図7)。相転移したマグネシウム・スズ系窒化物の性質はまだ明らかになっていません。現在は、思いもよらない特殊な性質を秘めていることを期待しつつ物性を調査しています。

    図6:(上)窒化ガリウム上へエピタキシャル成長させたマグネシウム・スズ系窒化物の逆格子マップと(下)その緑色発光スペクトル
    図7:マグネシウム・スズ系窒化物の高圧相転移

    <研究業績>

    [5-1] Kawamura et al., Cryst. Res. Technol. 51, 220 (2016).
    [5-2] Cao et al., Sci. Rep. 7, 14987 (2017).
    [5-3] Kawamura et al., Eur. J. Inorg. Chem. 2020, 446 (2020).
    [5-4] 川村、山田、応用物理 89巻 pp. 92–96 (2020).
    [5-5] Kawamura et al., Inorg. Chem. 60, 1773 (2021).
    [5-6] Yamada et al., ACS Appl. Electron. Mater. 3, 1341 (2021).
    [5-7] Yamada et al., ACS Appl. Electron. Mater. 3, 4943 (2021).
    [5-8] Yata et al., J. Appl. Phys. 131, 075302 (2022).