環境保全教育研究センターの森
センターの森は、敷地の一部に植林されたスギやヒノキを除けば、もともとは裸地や草地が自然に遷移して成立した落葉広葉樹林、つまり東濃地方のありふれた森です。しかしながら森の中に足を踏み込むと、いろいろな植物や昆虫たちに出会えます。
これまでの学生の調査(令和4年、2022年現在)で、センターの森では植物は約250種、昆虫に至っては約366種、タヌキ、ニホンノウサギなどの中型哺乳類だけではなく、ニホンカモシカ、ニホンジカなどの大型哺乳類など約13種の哺乳類が活動していることも確認され、東海丘陵要素(周伊勢湾地域に固有・準固有の植物群)をはじめとする絶滅危惧種や希少な植物、昆虫の生育地であることもわかりました。
現在、樹上性小型哺乳類(ニホンリスやムササビ)の営巣を目的とした巣箱の設置や、センター内のトリムコースを中心に設置した自動撮影カメラを利用した哺乳類相の調査を行っています。
名もなき小さな湿地
森の中には斜面の表土が崩れてできた小さな湧水湿地が点在しています。この湧水湿地の水質は、弱酸性で貧栄養なので、この水質に適応した植物だけが生育でき、周伊勢湾地域固有の湿地生態系を形成しています。早春に薄紫のハルリンドウの花が湿地を縁取り、初夏には食虫植物モウセンゴケの白い花や、見落としそうなほど小さな食虫植物ミミカキグサの黄色い花が咲き競います。そんな花々の間を世界最小のハッチョウトンボが飛び交い、水生昆虫ヒメタイコウチも忙しく歩き回っています。希少種のサギソウの純白の花が咲く盛夏が過ぎて、晩秋にホソバリンドウの濃い紫色の花が咲き終わると、来春まで湧水湿地は眠りにつきます。
現在、東海丘陵湧水湿地群の保全教育を目的として、湧水湿地教育研究フィールド内に観察路を設置し、「東濃の自然を識って愉しめる」自然観察会や講座を複数回開催しています。
雨が降った時にだけ水が流れる沢
普段は、水が流れない、落ち葉が積もっただけの沢です。春が来るよりも先にショウジョウバカマが花をつけ、順番を待ち構えていたカタクリが咲く頃になると、ようやく春がやってきます。サクラの季節が終わるころになると、運がよければ、数年に一度しか開花しないミカワバイケイソウに出会えることもあります。バイケイソウの仲間は、本来は冷涼な環境を好むので、氷河期が終わって温暖化するにつれて、北上するか山岳地帯に移動しました。でも、一部のバイケイソウは東海地方の沢筋に取り残され、独自に進化し、氷河期遺存種ミカワバイケイソウになったと考えられています。