走査型電子顕微鏡

お知らせ

    直接目で見ることができないほど小さな生物や細胞あるいは細胞小器官を拡大し、ときに細胞内に取り込まれた化合物や分子・原子などを特殊な方法で視覚化し、その構造や分布を観察する道具として顕微鏡は生物学に欠かせないものです。本学には様々な顕微鏡が備わっており、目的によってそれらを使い分けています。

    ここで紹介する走査型電子顕微鏡(図1)は、観察対象に光をあてる光学顕微鏡とは異なり、光よりも短い波長である電子をあて、その反射から得られる像を観察する顕微鏡です。微細構造を観察するのに適していますが、より細かな画像をよりきれいに観察するためには観察対象に導電性を持たせる処理が必要です。観察対象が生物の場合、固定してその形を保ったまま乾燥させ、表面に金やカーボンを薄くコーティングするなど、面倒な処理が必要ですがとてもきれいに見ることができます。

    オオゴキブリ腸内に寄生する線虫アオルロイデス・チュウブダイガクを例に、走査型電子顕微鏡での見え方を紹介しましょう。線虫は地球上のあらゆる場所に生息していて、動・植物寄生性から自活性と多様な生態を有しているものの、見た目はどれもにょろにょろとした形をしています。体が透明ですので、光学顕微鏡(微分干渉)で観察すると、消化器系や生殖器官など体の内部構造をきれいに捉えることができます(図2)。そして、チュウブダイガクセンチュウを固定・乾燥そして表面コーティング処理をしたのち、走査型電子顕微鏡にセットしてみると、光学顕微鏡では見られなかった線虫の美しい表面構造がPC画面に現れます。頭部の写真を見てみますと、「体環」とよばれるリング状構造が体全体を覆っていて、細菌が体環の隙間に共生している様子がわかります。頭部の表面は滑らかで、そして前方に向かって口が開いています(図3)。さらに頭部を拡大してみると、口の周りに規則的な模様と、口から細菌の塊が漏れ出ている様子も分かります(図4)。口の周りの模様は線虫の感覚器官で、嗅覚、味覚、触覚(温度、圧、深部感覚)を感知します。

    なぜこういった形態や機能がこの生物に備わっているのか、この生物が生息環境に適応するためにどのような進化を遂げたのか、走査型電子顕微鏡が必要となる研究フィールドは多岐に渡ります。

    図1
    図2
    図3
    図4