柘植 尚志

植物生産を脅かす菌類の植物感染メカニズム

お知らせ

    応用生物化学科
    柘植 尚志

    国連人口基金は、2022年11月、世界の総人口が推計で80億人を突破したと発表しました。今後も人口増加は続き、2050年には97億人に達すると推定されています。増加し続ける人口を養う食料をいかにして確保するのか、克服すべき課題は山積みです。

    植物生産に深くかかわる微生物

    人類の食を支える植物生産には、根粒菌、菌根菌などの共生(有用)微生物、植物に病気を引き起こす病原(有害)微生物など、多くの微生物が深くかかわっています。世界人口の増加に対応し、安定的な植物生産を実現するためには、これら微生物をよりよく理解し、より効率的な有用微生物の利用技術、有害微生物の防除技術につなげることも重要な課題です。

    農業技術が進歩した現在でも、世界的には、毎年15%ほどの食料(約8億人分の食料)が植物の病気によって失われています。私の専門は植物病理学です。皆さんには馴染みのない分野だと思いますが、植物の病気について、植物が微生物と戦う能力(植物免疫)、それを乗り越えて感染する病原菌の能力(病原性)、病気を防ぐ原理や方法(防除技術)などを研究する学問分野です。

    菌類が植物に感染するメカニズムの解明を目指す

    植物の病気の約80%は菌類(カビ)が原因です。菌類は、地球上に数十万種存在すると言われていますが、作物に病気を引き起こすものは1万種程度です。菌類の進化の過程で、植物に感染する能力を獲得したものだけが病原菌になったわけです。

    私たちの研究室では、菌類が植物に感染する能力、すなわち植物への侵入、植物中での増殖、それぞれの病気に特徴的な病徴発現や、病原菌が特定の植物にだけ感染する宿主特異性について、それら能力に関与する遺伝子の同定と機能解明に取り組んでいます。これらの研究によって、病原菌の植物感染メカニズムを総合的に理解し、植物を病害から護るための技術開発に貢献することを目指しています。

    生態系は、生物間相互作用の複雑なネットワークによって成り立っています。植物生産に深くかかわる植物と菌類の相互作用の研究に携わり40数年、常に新鮮な驚きに刺激されながら今日に至っています。