ワクワク好奇心研究室 Vol.1  

お知らせ

    長谷川浩一先生 応用生物学部環境生物科学科

    2020年春、新種の線虫を見つけて、その名も「チュウブダイガク」と名付けられました。そもそも線虫とは何でしょうか?

    ― 実は身辺で生活している動物で、土、川、池の中、他の動物・植物の体の中で生活しています。1ミリの大きさなので普段目にすることができないので顕微鏡の世界の生物です。一見、人間とは違う形をしていますが、筋肉、神経、生殖器官もあり、動物の基本構造を持っています。彼らの行動は嗅覚やセンサーがあるので、食べ物を見ればそれに向かって走っていくし、生殖器官もあるので異性がいれば猛アピールし、その一方嫌なものがあれば急いで逃げていきます。行動を制御するようなセンサーや、神経系、脳もあり学習・記憶もするので、動物のメカニズムを細胞レベルで線虫を使って研究することができるのです。

    1ミリの生物なのに機能は人間と変わらないのですか?

    ― 彼らの体の反応は人間と変わらないので、人間の代わりにモデル生物として線虫を使います。細胞レベル、遺伝子レベルで研究しやすいということで、世界中で研究材料として使われているのです。

    線虫のチュウブダイガクを顕微鏡で見る

    先生が線虫「チュウブダイガク」を見つけたのは、宿主を解剖したからで、実はこの宿主は嫌われものの〇〇ブリなんですよね?

    ― 線虫にとっての宿主は生きる場所なので、共生パートナーとして宿主の体の中で宿主と共に生きています。〇〇ブリは生きている化石と言われている生物で歴史は古く、3億5千万年の歴史の進化の過程で共生関係を構築してきました。寄生共生関係では実は重要なことです。

    線虫の名前を「チュウブダイガク」にしたという意味があるようですね?

    ― 寄生と共生の関係を研究している研究室は世界でもユニークです。これを研究しているのは中部大学ですから、ここから世界へ発信していこうと想いを込めて名付けました。

    先生が線虫の研究を始めるきっかけは何だったのでしょうか?

    ― 京都大学学部生の頃はキノコに興味がありました。キノコは植物の根と共生関係を持っています。キノコは植物に栄養を与えて、植物もキノコに栄養を与えています。それが上手くいっている植物はしっかり育ちますが、上手くいっていない植物は病気になり死んでしまいます。ですから、森林生態系にとってキノコは重要な働きをしています。そこから寄生共生というテーマに興味を持ちました。そして研究室配属のときにキノコの研究を行っている研究室に入ったのですが、そこでは松と松茸の共生関係の研究をすると共に、松の病原体であるマツノザイセンチュウ(マツ材線虫)という研究もしていたので、結局、「病原体としての線虫」「寄生共生としての線虫」「モデル生物としての線虫」を知って、線虫の大きな可能性に気づいて線虫に変えていきました。

    京都大学大学院時代の仲間と
    京都大学大学院時代の教授と同僚

    この研究の先に見えるものは何でしょうか?

    ― 線虫を使った研究は2002年のノーベル賞の受賞対象にもなっていますが、がんのメカニズムの研究に使っています。生物の寿命・老化は、遺伝子によって制御されているというのが、線虫を使って徐々に解明してきたので、寿命を制御する遺伝子のメカニズムが分かると、そこを活性化させる食品などを開発すれば人間は健康で長生きできるようになります。

    宿主の中に線虫がいる

    環境生物科学科の学生は生物好きが集まると聞いていますが、その中でもある学生さんの強烈な集中力が記憶に残っているとお聞きしています。

    ― 顕微鏡でひたすら観察する研究をしていましたが、私の仕事が終わって研究室を出ようとしたときに彼は顕微鏡を覗いて熱心に観察していました。私は「遅いから帰るね。無理しないでね」と言って帰宅したのですが、翌朝来てみると彼は同じ姿で顕微鏡を覗き続けていたのです。顕微鏡と一体となっていて、どっちが彼でどっちが顕微鏡かわからないくらい(笑)の集中力で研究を進めていました。彼はとうとう博士課程まで進んで森林総合研究所という国の研究所で今も勤めています。

    その研究所の就職担当者の彼への評価が非常に高かったそうですね。

    ― 研究に対する熱意はもちろんですが、誰とでも一緒になって頑張ろうと言う前向きな姿勢が抜群だ!というので採用が決まりました。後輩に対する良い見本になったと思います。

    学生を含めた若者へのエールをお願いします。

    ― チャレンジしていくと失敗、成功いろいろあると思いますが、そこで判断して決めたことを一生懸命するとよい方向に導かれます。希望の研究室に例え行けなくても、決めた(決められた)研究室で一生懸命やることで道は必ず開けます。環境生物科学科の先生方は一流の研究者が揃っているので、そこで頑張れば面白い研究ができるし、道を決めて愚直に進めば必ず未来が見えます。

    インタビュアー感想:
    線虫がヒトと変わらない機能を持っていることも驚きですが、ご覧のように先生の大学院時代と現在とあまり変わらない若々しさも驚きです。フィールドワーク好きが集まる環境生物科学科は興味深い生きものたちに会える場ですよ。

    長谷川 浩一
    応用生物学部 環境生物学科 教授
    専門分野 応用昆虫学、線虫学、遺伝学

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