ワクワク好奇心研究室 special thanks Vol.33 

お知らせ

    澤本光男先生 先端研究センター特任教授 京都大学名誉教授
                        科学技術振興機構研究主幹

    フランクリンメダル授賞式 (Kris Matyjaszewski 教授と)

    毎年ノーベル化学賞候補のお一人としてお名前が上がる先生ですが、先生のご研究を簡単 に教えていただきたいです。

    ― 私の研究分野は、高分子化学、高分子合成、あるいは精密高分子合成です。この「高分子」というのは「高い分子」と書きますが、分子量の大きな分子を意味しています。高分子は最近ではポリマーとも呼ばれます。ポリはいくつもの要素から成っていて“沢山”という意味で、マーは“部分”ですから、”沢山の部分”から成っている大きな分子です。これをわかりやすく言いますと、真珠を一つ一つ繋げていきネックレスができるのですが、この繋げていく反応を「重合反応」と呼んでいます。この様に重合反応で作られた大きな分子を高分子またはポリマーと呼び、たとえばポリエチレン、ポリスチレン、アクリル樹脂などのプラスチック、ペットボトルや衣服のポリエステル、自動車タイヤのゴムなど、数多くのポリマーが日常生活で使われています。これらは人間が作った合成高分子ですが、それとともに,我々の体の中にも高分子が多くあって、これらは生体高分子と呼ばれています。心臓の筋肉などのタンパク質、消化を進める酵素、遺伝情報を形作る遺伝子 (DNA)などがあり、我々の体も水を除くと大部分がポリマーからなっています。お米などのデンプンや衣服に使う綿も多糖類と呼ばれる高分子ですね。

    この高分子がどのように形作られるか、形作られる時にどのような問題が発生するかを調べながら、問題がわかったらそれに対して対策を取って、理想的な長さの構造を持ったポリマーを作ることができればいいなと思って作ったのが精密重合です。サイコロと同じで100回、1000回振って「1」だけ出すにはどうしたら良いですか?と同じくらいの作業をしています。何度も繰り返して、真珠を100個1000個繋げていくことになりますので、精密ですが、時々間違いがあるので、それが何かがわかってくるとどのような薬を使ったら良いかなどがわかってきます。そのうちの一つのラジカル重合で見つけたというのが、最近の仕事になります。

    高分子精密合成:望み通りポリマーを美しく創る
    精密精密高分子の応用展開:
    :数多く応用展開が国際的進み一部は製品となっている。

    簡単にご説明いただいたということですが、もう最初で圧倒されています。

    ― 工業的には毎年何百万トンというポリマーが生産されています。このような工業化された重合反応も、これだけ大量の優れた高分子材料を作り出せていて、それぐらい素晴らしい反応なのですが、もう少し良くなったらいいな、ここにこんな機能を示すものを入れたいとか、思った構造通り作れているかを確実にするために反応をより精密にしたのが精密重合で、構造や機能(働き)がより精密な,いわばより美しいプラスティック、繊維、ゴムを作っていこうとする反応といえると思います。

    すごく深いものを何十年とかけて研究していらしたことがわかりましたが、先生はかなり権威のある、フランクリンメダル化学賞を獲得されていますが、クラリベート引用 栄誉賞という賞も受賞されています。

    ― このクラリベート社は、学術誌に発表された論文がどれだけ他の研究者の関心を引いて引用されたか統計を取っている会社で、どのような数(被引用回数)で、いつ頃からどれくらいの速さで引用が増加・拡大していったかと同時に、どのような分野の人が引用しているか,いわゆる波及効果と貢献を調べています。その結果、精密ラジカル重合に関する我々の論文が、それなりの引用を得て波及効果が明確であるということから「クラリベート引用栄誉賞」を頂きました。高分子精密重合、高分子材料の分野の人は当然かも知れませんが、それに関連して、遺伝子学、生物学、物理学の人も興味を持っていただいたようで、我々の分野では他分野周辺分野への波及効果と引用回数の多さが目立ったということかと思います。

    有り体に言いますと、論文の被引用回数(著者の自己引用ではなく、他の研究者による引用)は、昔でいうとCDの売上高、有線カラオケのリクエストの数、携帯電話の着メロの着信回数に対応しているかと思います。我々が発表する論文に対して、読者・研究者がどれだけ面白いと思っていただけるかどうかと、自分自身の研究に関係してこれを使ってみよう!とか、少なくともそれにヒントを得て参考にして仕事を始められる方もいたりして、インパクトを与える論文であったということです。単に面白いと言うよりも、興味を持ってもらうことで、この論文の結果を様々な方に自分の研究に応用していただいたり、これをヒントを得て研究が始まりその評価の結果ということになります。

    Clarivate 引用栄誉賞 賞状

    研究者という人は、この研究を一生頑張っていこう!と決めるのは、大学や大学院時代な のでしょうか?

    ― 人によってはもっと前から研究者を目指した方々も少なくないですが、私の場合は、そうだと思います。私は小学校の頃から大変良い先生に恵まれて、理科の中でも特に化学に興味を持つようになって、高校の時に化学の中で新しい進化があるのは高分子かもしれないと、先生や先輩に言われてそちらの方向に行きました。たとえば中学では、故・山上智男先生が化学や物理に対応する第一理科という科目もこのご担当で、授業が面白かったと共に、原子や分子などの基礎をわかりやすく書いた「化学のドレミファ」と言う本などを紹介いただき、何度も読みました。そのせいもあって、先生が顧問をされていた「第一理科クラブ」に入って実験や研究発表もしました。

    化学のドレミファ
    京都教育大学付属京都中学校「第一理科クラブ」卒業写真
     第一列 (右端)山上智男先生(顧問),(右から3人目)澤本(中学3年)

    大学に入ると、恩師である故・東村敏延先生と「高分子合成」という講義で巡り会って、高分子の作り方やどの様に制御するかの授業に聞き入って,先生の研究室に入り、結局博士課程まで進んで,先生の研究室の教員となりました。ただ正直申し上げて、幼少の頃から大学に残って研究者になろうとはさらさらなかったのです。最後、博士課程に行ったらどうですか?と言われて今、ここにいるわけです。高分子の合成を精密にやってみたいと思った時期は、大学院生から助手(現在の助教)になったぐらいで、それまでは、どの様に反応が進むのか、どの様に早く進むかという基礎的なところに興味があってそこに入ったのです。ライフワークをいつ決めたのですか?と問われると、高分子の何を研究していこうかは、大学院に入った頃ぐらいでしょうか。美しいストーリーがあるといいのですが、実際はこのような感じです。

    先生はお話にもあったように、いい先生に巡り会えたから今があるのですね。

    ― それは正直なところで、この年齢になりますと質問されることも多く、きっかけは3つあります。

    ひとつ目ですが、私の父親は文系の高校の教諭でしたが、同僚の先生方とも相談したのでしょうか、色々な本を私が小中学生ぐらいから持って帰ってくれて、その中に理科の本がありました。その頃から天文学を含めた理科に興味を持ちました。ふたつ目は中学・高校で良い理科や化学の先生方に巡り会えました。入試のテクニックではなくて、「何が面白いの?」「何が起こってるの?」「どう考えたらいいの?」「分子は何か?」など、そんなことを教えていただいて、結果としてこの分野が好きになって化学に入って行きました。勝手に「得意科目」と考えて,自分なりに勉強した記憶があります。その意味で、あまり迷わないで,大学では化学系に進みました。 最後は京都大学に入って、先ほど申したように東村敏延先生に巡り会って、面白い講義をされ、良い研究をされて、私の好みである、どんな風に進むのか、どんな風に作るのかのご研究をされていたので、今の私があるのだと思います。

    東村敏延先生 (1990-京都大学教授室)

    ですから、指導教授との相性がとても大切ですね。

    ― おそらくそうだと思います。私にとっては第二の父親と言っても過言ではないと思います。大学に入って就職した後、父親とは朝「おはよう」と言ってご飯食べて10分~15分でお互いそれぞれ出勤して、大学に行くと50メートル以内に東村先生といた時間が、父親といた時間よりも圧倒的に長いのです。最近亡くなられたので追悼文を書かせていただきましたが、夕方5時や6時になり仕事が一段落すると、「ちょっと澤本くん」とか「ちょっと先生いいですか?」と声を掛け合って,教授室でよく話し込んでいました。研究の打ち合わせや論文の構成、国際会議の英語の練習をお互いこっそりやり合ったりしましたが、同時に「人生とは何か?」とか「研究ってこのようなものだ」とか、いろいろ話していただいたり、ときにはお互い愚痴もこぼし合ったり、私にとっては大変楽しく、また有り難かったと思います。

    いい時を過ごされましたね。そして先生の今のご研究に繋がっているということですが、以前研究には「時代のニーズがある」と仰っていましたね。

    ― 時代のニーズを流行と捉えて流行に惑わされるなという意見があり、私も全く同感です。しかし同時に今ですと明らかに、「持続可能性」(susutainability) というものがあります。少し前までの高分子は、「より高い価値を持つ新たな製品、または新しい分子、高分子、材料」という求めが強かったのです。それは日本と世界の産業の関係があって、これまでは安くいいものを作ればよかったのが、周りの国々も追随してくると、今度は日本でしか作れない高分子材料と言われ、それには精密合成が必要との流れになって行きました。今は状況が変わり、公害対策や環境保全を経て、SDGs (sustainable development gorals; 持続可能な発展目標) に象徴されるように、地球や人類と共存していく「持続可能な科学や材料」が求められるようになってきました。高分子科学の分野では、とりわけ海洋プラスチックや分解性高分子など、如何に人類、社会、地球と共存しつつ、人類のために大変役に立っている合成高分子をどのように作り、育て、使っていくかが重要になってきます。その意味では、「流行」も「人類の求め」に対応する場合もあり、研究者も企業も心に留める必要があるかと思います。

    持続可能な開発目標:出典 [https://sdgs.un.org/goals]
    持続可能な開発:国際連合が2030年に世界で達成することを目標として2015年に提唱した。
    化学や材料開発に直接・間接に関係する目標(2,6,7)も数多い。

    ご研究の他に、先生の骨格を作ったものがいくつかあるのですが、その大切な一つに「英 語」があります。京都大学の入学式直後にあった面白いエピソードをご披露ください。

    ― 今でもしっかり覚えていますが、大学の入学式の後でバスを待っている時に、同じ大学に入った中学高校の同級生が声をかけてくれて、1年2年生のときはそれなりに自由な時間があるので英会話の学校に一緒に行ってみないかと誘われ、水曜日・土曜日の午後7時から9時まで、英会話の学校に行ったのが一つのきっかけです。今では誰も信じてくれないのですが、それまで、私は全く無口だと思われていたのですが、その頃から英語のみならず日本語も含めて会話というのは実に面白く楽しい、何かボールを投げると相手がそれに対して答えて、それについてこちらがまたボールを返す。これがきっかけで英語に興味をもちましたが、同時に英語がわからないと論文も読めませんし、論文を書かねばなりません。英語は非常に大切です。後から気づきましたが、英語は皆さんの世界を大きく広げてくれます。そのためには日本語もしっかりできなければいけないし、それで何を考えているかを如何に話すか、如何にわかってもらうか、如何にコミュニケーションを取るか、如何に相手の気持を理解するかは英語がとりわけ重要です。

    ちなみに、この英語や日本語に関して「日本語の滅びるとき」という本があります。インターネットや様々なものを含めて英語で小説を書いたり、英語で作品を作らないと誰も読んでくれません(「電子図書館」の時代とも言われます)。英語が共通言語になっているので、その中で日本語でしか表現できない、また特異的な限られた人しか話していない言語はそのうちどんどん衰退していくのではないですか?どうしたらいいですか?ということを考えている本で、理系の研究者にも大きな反響をよび、英訳版もできました。

    個人的には、多くの専門家も述べておられるように、英語に親しむとともに、まず日本語もしっかり基礎を固めていく必要があると思っています。もちろん、英語は非常に重要ですがペラペラ喋るのでなく、言いたいことをはっきりとまた誠実に相手に伝え、相手が耳を傾けてくれるような英語について興味を持って、英語力を若い時から身につけられると世界が広がると思います。

    日本語が亡びるとき 筑摩書房

    先生は推理小説など読書量も半端ないのですが、有機化学の有名な教科書の輪読を大学の 教養過程で教授に誘われて行っていたということですね。

    ― 大学入学直後の1回生の有機化学の講義を担当された故・小笹英夫先生に、質問に行ったのをきっかけに、毎週土曜日の午後に先生のお部屋での輪読にお誘い下さり,同級生5―6名と続けました。フィーザーという有機化学の分野では非常に有名な方が書かれた初級の教科書を使って、英語を読んでそれを解説するということを行っていました。

    その後は、ジョン・レ・カレの有名な「寒い国から来たスパイ」や、推理小説ではありませんが、シャーロッテ・ブロンテの「ジェーン・エア」など、英語で書かれた小説を原文で読むのに興味を覚えて、乱読しています。英文のお手本としては、冷めた文体のジョン・レ・カレや、推敲を重ねて骨と皮だけの文章にすると言われている「老人と海」などで有名なアーネスト・ヘミングウェーが好きです。

    Louis F. Fieser, Mary Fieser
    “Introduction to Organic Chemistry”
    (Maruzen Asian Edition; 原版 1957; ISBN-10:0669247944)。
    大学1ー2回生の個人輪読で用いた。
    John le Carre,
    “The Spy Who Came in from the Cold”, Penguin Books
    (Reprint 版2012; 初版 1964)

    日本語で考えることと、英語で考えることでは違いは有るのでしょうか。

    ― よく違いが有ると言われていますが、やればやるほどたぶん一緒だと思います。どのように表現するかは違いますが、それなりに順序立てて自分のわかったことを書いていくかは共通していて、また最も大切な点であり、日本語をしっかり身につけてから英語を勉強するという説に私は賛成です。幼い時に身につけると発音も上手になりますが、日本語をしっかりやりつつ英語もやっていくことが必要だと思います。やればやるほど基本的に人間は代わりはないのだなと思います。ただ、英語に特有の表現があり、英語に特有の論理展開があるので、それは身につけて表していくのもたしかに重要だと思います。

    推理小説もお好きなんですよね。

    ― 私のような分野(実験化学)の人は推理小説が好きな人が多いのですが、政治謀略小説や科学空想小説 (SF; science fiction) も好きです。言い訳がましくなりますが、推理小説は何か事件が起こった時に状況証拠を集めて刑事、裁判官、検事、弁護士の方もある種のストーリーと呼ばれる、このような理由でこの事件が起こった、そのための根拠はこのような状況証拠というものをつなぎ合わせて論理(いわゆる「ストリー」)を作ります。私達の研究の進め方もよく似ていて、実験をやって、始めはこのような事が起こるだろうなと思って実験をするかもしれないですが、時には予想と違う結果が得られます。また他にもこのような文献がある。それらをつなぎ合わせると多分このようなことが起こっているのではないかという、先ほどのストリーに対応する仮説(「作業仮説」)に基づいて実験をし,その仮説が正しいかどうか確かめてゆきます。そのようなところが、科学の研究開発と推理小説は共通している部分が多いと思います。時々変な状況証拠に紛らわされて、結論が随分変わってしまったり、見間違いをしたりするので慎重に裏を取るなど、とても推理小説も重要だなと思うわけです。

    小松左京、「復活の日」角川文庫(2018; 初版1964)
    コロナ・ウイルスの世界的流行で一躍再評価された。

    先生の研究室には戸棚の中に小さな模型飛行機が所狭しと並んでいますが、小さな頃からプラモデル作りが大好きで、飛行機に憧れたそうですね。

    ― 中学時代に、アメリカの飛行機やジェットパイロットに関するドラマが放映されて興味を持ちました。天文学に関係してロケットや宇宙船にも興味がありました。高校から大学に進む時にパイロットになる道を選ぶのか、これから化学の最先端と言われる高分子に行くのか、少し迷ったときがありました。車ではなく飛行機は美しい、機能が形を表すというのでずっと興味を持っていて、本棚の中に本よりも飛行機の模型が多いという批判を浴びることになったのではないでしょうか(笑)飛行機も炭素繊維複合材料のように、ポリマーが随分使われているのですよ。

    中部大学研究室にて書籍と飛行機

    先生が憧れた小さい頃のプラモデルが実は何十年も経って自分の研究に繋がっているというお話でもありますね。さて、先生には教育のお話も是非伺いたいのですが、先生の時代の記述式で入る入学制度試験から1979年から始まったマークシートテストで今もそれが今も続いているわけですが、マークシート試験に代えた意味はあったのでしょうか?

    ― これには色々意見があって、共通一次試験というのがありましたね。一時的にマークシートで基礎的な質問を選んでいくというのは、各国でも行われています。それで全てを決めてしまうのは語弊が有るでしょうが、第一段階はそれで検査をしてその後各自の大学が目的に応じて記述式を中心に入試を作っていくのはそれなりに意味があると思います。

    マークシート試験

    一点の差で、合格不合格が決まってしまうのが私には解せないなと言う感じがします。

    ― それもよく言われることです。それには抜本的な改革をしなければなりませんね。それには定員を決めないで、一旦大学入学を許可して、その後1年2年で厳しくテストをすることによって、半数の人はそれ以上進めないようにして、その人達には別のパスが有るような社会を作るとか。日本の場合は大きな講義室もないし、教員も少ないし、そのためもあり入学定員を決めています。英国のオックスフォード大学などで行われているような面接だけの入試の試みもありましたが、日本ではなかなか難しい感じがします。一部記述式のところで、どのような素質や興味や意欲があるなど必要ですが過度に技術に走らないようにし、本質を勉強しつつ、結果は結果ですので、決して無駄では無いのだと思います。しかし改革は進んでいくと思います。

    東京工業大学が2024年春から女子枠を導入して、女子枠比率を20%上げるということですが、女子枠を設けたほうがいいと思いますか?

    ― 個人的には、そのような試みは過渡的には必要ですが,長い将来には必要ないと思っています。属に理系と言われる分野、自然科学の分野に進学しようと思う女子学生が増えているのは事実で、なぜ特別扱いしないといけないのか。もちろんある段階で離陸するために過渡期にそのような枠を設けるのは必要かもしれませんが、しかし本当によくやっておられる女子学生は、「女子枠で通ったなんて片腹痛い」と思うのも随分有るし、試みとして行うのはいいですが、いずれそのような状況が無くなってほしいなと思います。それは大学の教員の採用についても全く同じです。学会においての「〇〇賞」の女子枠、「女性〇〇賞」も、なぜこれまで選ばれなかったかというと母数が少なかっったからです。いずれは無くしていく方向になったら良いと思います。

    今の大学教育に先生が足りないと思われているのは何でしょうか。

    ― 自分にとって「何に興味があるのか」、「何が面白いと思うのか」その先に自分の仕事の関係する分野を早く見つけて欲しいと思います。その意味で,よく言われていることですが、教育では、試験で高い得点をとるためではなく、好奇心を育む、積極的に自分で考えるとか、と言う姿勢を育むのが大切だと思います。教員になった私自身を顧みても、良い講義をする、双方向の講義で質問をしつつ、一方向でない講義をしていく必要があると思います。妙な技術に走るのではなく、就職のためでもなくて、何が面白いのか、どんな事が好きなのか?好きこそ物の上手なれとありますので、好きになって興味を持つと自分で勉強し考えていくと、自分の得意循環になっていく、好循環が得られるような教育ができればと思っています。

    インタビュアー感想:
    新聞社からの澤本先生へのインタビューの付き添いで先生のお話を伺ったのが初めての出会いでした。ポリマーの話はその道の人が理解できればよいとの割り切りで伺っていたのですが、先生を興味深い人と感じたのは、飛行機への憧れ、英語、推理小説に話が及んだときです。また別の機会に、ばんばひろふみさん、谷村新司さんのラジオを良く聞いていたという話になると、先生の滑らかな京都弁の語り口が更に加速しそれがとても楽し気で印象的でした。ノーベル賞候補という研究一辺倒であろう研究者としてのお顔と同時に、先生の庶民的な温かさとそのコミュニケーション力で、幅広く好きなものへの集中度が更に増し、素晴らしいご研究をしていらっしゃるのだと思い至りました。



    澤本 光男
    先端研究センター特任教授、京都大学名誉教授、科学技術振興機構研究主幹
    専門分野:高分子化学、高分子精密合成・精密重合

    中部大学について