ワクワク好奇心研究室 Vol.19 

お知らせ

    寺澤朝子先生 経営情報学部経営総合学科

    経営組織論・組織行動論はどのようなご研究でしょうか?

    ― 経営学の一分野です。特に会社の組織や、組織の中の人間行動を研究する分野になっています。主に私が研究テーマにしてきたのは、動機づけ理論や組織変革論です。よく「モチベを上げる」などと言いますが、それを研究するのが、動機づけ理論、モチベーション理論と言われるものです。これは古典的研究から様々な研究がありますが、授業の中で好評なのは、二人の人間関係から生まれるモチベーション効果です。

    寺澤先生研究室の本棚

    具体的にお願いできますか?

    ― ピグマリオン効果、ゴーレム効果という概念があります。

    ピグマリオン効果は立場が上の者、親、先生、監督、上司等による高い期待が、立場が下の者、子ども、生徒、選手、部下などの高い業績や成績をもたらす効果になっています。例えば、先生がこの子は頭のいい子だと信じて接していると、それが生徒に伝わって、本当に生徒の成績があがるようなケースです。

    ピグマリオンというのはギリシャ神話の登場人物で、自分の作った美女の石像に恋をして、この像が本物の女性になったらどんなにいいだろうと願い続けたら、本当に人間の女性になって結婚したという神話が元になっています。

    この逆もあって、それがゴーレム効果と言われるものです。これは上の立場の誤った低い期待が下の立場の者の業績や成績を逆に下げてしまう効果です。このゴーレムというのも、街を守るための守護神として作られた石像が、誤った魔術によって破壊神になってしまい、その街を完膚なきまでに破壊したという神話が由来になっています。上司が部下に対して、「使えないな」と誤って思い込んでしまうと、部下の能力を低いままに留めてしまう可能性があるという悲しい効果です。

    本来は、親、先生、上司は守護神であるべきなのに、それが破壊神になってしまうのは残念なことです。アルバイトや部活動などで指導する立場になる学生さんも多いので、ゴーレムではなくピグマリオンになってくださいね!と伝えています。

    学生さんの中には先生のこの講義内容を卒業まであるいは卒業後も覚えている方もいるということですね。

    ― とても嬉しいですね。ありがたいです。

    先生はホテルのことを研究する機会があったようですね。

    ― 現在、ホテルを運営する企業の社外取締役をしています。現場の人材育成に興味があったので、多くの現場スタッフにインタビューさせていただきました。長い歴史があり、規模も大きくなって、毎年多くの新入社員が入ってくるので、人材育成が間に合わないとか、トップの意図が現場まで伝わりにくいという背景があり、お客様の満足度が目に見えて下がってきているとか、従業員の満足度が上がっていないのではないか、などを問題意識として持っていました。私の専門の組織行動論の視点から何かお役に立てることはないかと思い、「ホテルホスピタリティの探求」の本を出版しました。

    ご著書

    本の中身をご紹介いただけますか?

    ― 「ホスピタリティ・おもてなし・サービス」という言葉はよく混同して使われますが、語源が明らかに違います。ホスピタリティは、相手が自分にとって得になる人か損になる人かわからないけど、対等の立場で相手のためにベストを尽くしましょうという考え方がベースになっています。一方でおもてなしは茶道の精神です。明らかに違うのがサービス。語源がslave(奴隷)で、より下の立場のものが尽くすというイメージが強いです。

    これからの理想の組織のかたちとは何でしょう?

    ― たとえばホテルであれば、トップダウンで指示が来てお客様にサービスを提供するのではなくて、ボトムアップ、つまり現場のスタッフがどうしたらお客様に喜んでもらえるかを考え、アイディアを出し合ってホスピタリティを発揮する、そして現場が動きやすいようにマネージャーやホテルの総支配人がサポートするような組織です。

    経営学でよく言われているピラミッド型の組織ではなく、逆ピラミッドの形になり、マネージャーや総支配人が、現場を支えるというイメージです。

    これからの時代の逆ピラミッド型組織

    中部大学では特色あるキャリア教育を行っているということですが。

    ― 中部大学では学生が自らのキャリアを考えるリベラルアーツ教育科目があり、その中の自己開拓の授業を担当しています。自己開拓は、自分の性格や価値観を仲間とのグループワークを通じて理解し、着実にコミュニケーション力を上げていく授業です。

    自分を知るということですね。

    ― 自分自身のことはなかなかわからないものですが、グループの仲間に鏡になってもらって、あなたはこんなにいいところがある!とか、こんなことを大切にしているんだね!ということを教えてもらう、気付きの多い授業です。

    最初と最後の学生の表情が違うと聞いています。

    ― 毎週様々なグループワークをやることで、自信のなかった学生が週を追うごとにどんどん表情が明るくなって変わっていく姿が見られます。

    中部大学は8学部ワンキャンパスですから、学部学科が異なる学生グループの中で自己開示をします。それに対する反応を仲間から貰える経験を積み重ねていくと、自己効力感の上昇に繋がります。教育効果測定を行うと、数値的にも授業前と後で学生が精神的に変化しているというのがわかります。

    授業風景

    一つの学期は15回の授業がありますが、15回目に面白いことがあるのですね。

    ― 15回目の授業の時に自分の取扱説明書を作ります。「わたしMAP」のワークでは、自分の性格を言い当てているという用語を近くに置き、自分の性格と違う用語は自分から離したところに置いて自分の性格を見える化した後、それを他の人に見せて説明するのです。

    また、小学校の時からの気持ちの上げ下げを人生曲線で表して自分のことを他人に語ることをします。人生の棚卸しをすることで、自分がどんな時に落ち込んでしまうのか、何をきっかけに復活できるのかということを知るワークです。

    画用紙工作を含んだゲーム形式にすると、学生は立ち上がって夢中になって議論をしています。それを積み重ねて15週目に、自分についてわかったことをまとめ、自分のトリセツを作るのです。これは社会に出てから必要な生きる力を育んだり、学生生活での様々なチャレンジを励ます授業になっているので、できるだけ多くの学生に受講してもらいたいと思っています。

    インタビュアー感想:
    経営というものは何故か遠い存在に感じていました。考えてみれば、人として生まれてきたすべての人々が生活をする上で避けては通れないものですが、経営のあり方は時代によって変わっていくもので、大切なものの基準が変われば経営の考え方も変わるのだなと先生のお話を聞いていて思いました。トップダウンではなく、現場の意識の向上がいいものを創り上げていく経営の原動力になるのだと改めて思います。

    寺澤 朝子
    経営情報学部 経営総合学科 教授
    専門分野:経営組織論、組織行動論

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