ワクワク好奇心研究室 Vol.7 

お知らせ

    ジョン・ギャスライト先生 人間力創生教育院 人文社会リテラシー

    先生は名古屋のCBC放送局と切っても切れない深いご縁がありますね。

    ― ここ(CBCのスタジオ)に来るとふるさと返りです。留学生として名古屋に来ていた時からCBCでタレントとしてお世話になりましたし、「ジョンさんの名古屋日記」は中日新聞にも連載していました。

    20代 タレントとして活躍時代(私蔵)
    20代 タレントとして活躍時代(私蔵)

    名古屋大学大学院を修了し、今ではツリークライミングを始めとした、世界で初めての研究をしていらっしゃいますが、このツリークライミングはどういうものですか?

    ー 直訳すると木登りです。ロープやハーネスなどの道具を使って登るため、人間は木のどこにでも行けます。一番高いところは80メートル以上の木になります。普通に登ると木の幹までしか行けないのが、道具を使うと木を傷めないで天辺や木の枝先まで行けますから、木の全体が分かるような素晴らしい技術です。自分の体重をロープにかけるなど工夫したり、木を移動する時はそのまま木々の間でオラウータンのように渡っていくことができます。

    博士を取った時の研究テーマは何ですか?

    ― 私は日本にツリークライミングを紹介した第一人者です。プログラムが始まって多くの人が登り始めましたが数万人以上のグループになった時少し怖くなりました。私達は木を傷めないとか、人へのセラピーなどの目的があってツリークライミングを始めたのですが、本当に効果があるのか、本当に社会のためになっているのかどうかを知りたくて40歳過ぎて大学院で勉強し始めました。テーマは、ツリークライミングの身体的、精神的、社会的な効果のプログラムでした。

    名古屋大学大学院博士課程修了証書(私蔵)

    ツリークライミングには研究の柱があるのですね?

    ― ツリークライミングの中に、社会に良い影響を及ぼすものを目指していました。人が木に登ると、精神的身体的により向上するプログラムが作れるだろうとのことで始めたのですが、重度身体障害者の方(身体チャレンジャーと呼んでいます)など、歩けなくなったり車椅子になっても木に登ることができるプログラムを始めたのです。きっかけになったのは私の本を読んでくださった身体チャレンジャーの方が、「世界で一番大きな木に登りたい!」との発言を受けて応援したい想いからでした。どうやって成功するのか分からなかったので、世界に出て勉強しその技術を日本に持ち込んだことでツリークライミングが始まったという経緯があり、彼女が初めての成功者だったのです。

    彼女の夢のお手伝いは上手く運んだのですね。

    ― 80メートルの木に登って夢が叶ったのです。それは世界初の事でした。それをきっかけにアメリカから私が日本に戻ってきた時に多くの人から登りたいと言われたのです。実は自分の研究のプロジェクトの中で外せないことがありました。木に登るとセラピーとしてどのようなプログラムを作れるか、木に登ると人間の脳はどの様に変わってくるのか、森林セラピーのような影響はあるかなど、初めての研究だったのです。

    ジャイアントセコイヤ車椅子から樹上へ(私蔵)

    世界で一番大きな木ということですが、それは何ですか?

    ― ジャイアントセコイヤです。高さは80メートル以上、太さは10メートル以上、樹皮だけで1メートルの厚さです。その木は恐竜が生きていた時代からありました。全世界に分布していたのに今ではカリフォルニアの一部しか残っていません。その木に一緒に登ってきました。森に行った時に発見したことは、ジャイアントセコイヤの森は”危ない”ということでした。頻繁に山火事がある森なので近隣の人たちは山火事を消してしまい、自然の森ではなくなってしまいました。将来、山火事が起こるときに3000年以上生きている木が絶滅するのではないかという恐れがあったため、新しい研究プログラムを立ち上げました。ここには日本の知恵が入っています。

    アメリカカリフォルニア州 
    樹高約80mのジャイアントセコイア(私蔵)

    先生のツリークライミングの夢はなんですか?

    ― 世界一の木の上で研究できる学生をたくさん作りたいと思っています。この世界は未発見が多いので、ワクワクしながら研究者が増える手伝いをしたいのです。

    先生が中部大学で教鞭をとられて10年になられた頃、創立者の三浦幸平先生の親族である三浦学監にある時呼ばれたとの話がありますね。

    ― ビクビクして部屋に行くと、素晴らしい話でした。ツリークライミングのことを非常に理解していらっしゃって、私が初めて日本に導入したので、ぜひそれを中部大学の中で広げていきたい、またスーパー先生を育てたいと話されました。現代教育学部が設立された時だったので、表面的なことだけではなくて、将来も見据え生物多様性のことを理解し、環境問題のことを本当に分かるという先生を作りたい、ツリークライミングを活かしてスーパー先生を作りたいという話でした。もう一つは、中部大学は、先生になる人達には自分の夢を持ってエキサイティングに活動してもらいたいから、私が一番力を入れるものを頑張って欲しいと。感動したのは、”本物が欲しい!”と言われたことでした。世界を変えられるぐらいの学生が大勢いるので、世界を変えるぐらいのパッションと知識を教えてくださいと言われたのです。

    そのようなジョン先生の大人気の授業に焦点を当てたいのですが、人間力を養う授業はどのような授業ですか?

    ― 大きく言うと2つ授業を持っています。木に登って生物多様性や調査をしますが、これは大学院生のためです。もう一つは「教育を見つめて」という全学年の学生が選択して受けられる授業です。社会問題についてなど教育を様々な方向から見つめます。いじめ問題、虐待問題、環境問題、どうやって幸せになるかのポジティブサイコロジーなどで、インターネットからの勉強ではなく、自分で実際に勉強して味わったもの、体験したものを自分でしか言えないことを基準に行います。

    ぜひ聞いてみたい授業だと思いましたが、授業で使うのは小さなノート1冊だそうですね。

    ― ノートに名前・学籍番号を明記させて、私が適当にあちこちに置いた「自分のノート」を探して座るのです。ですから隣の人は初めて会う人になります。授業の中身はコミュニケーションを重んじ、学生同士がお互い話をしたり、先生と話をしますが、その中に戸惑った学生がかなりいました。教育だけでなく、コミュニケーションの話術を教えていきます。15回のクラスが終われば、皆とても仲良くなって良い雰囲気になります。私はそのノートにお互いに話ができるように沢山書いて渡します。疑問や知りたいことを書くと、授業1時間前には私がクラスに来ることを知っているので、その時間に皆色々な問題をぶつけてきます。

    先生と学生とのノート(私蔵)

    先生のとっておきの1000円札の話を聞かせてください。

    ― 学生の前で1000円札を出します。これはどれくらい価値があると思いますか?と問います。「1000円です!」と学生は答えます。このお札をぐちゃぐちゃにして丸めたりした後、どれくらいの価値か聞きます。「1000円です!」と答える。欲しい人は?と聞くと皆欲しい。演技ですが、脇の下で擦ったりして(笑)欲しいか聞くと、まだ欲しいと言ってきます。最後は水に入れて1000円札は水浸しなのにまだ学生は欲しいのです。価値は?と聞くと「1000円です」と答えます。どうしてか?世界中の人はその1000円の価値をどんなことがあっても守ろうと決めています。実は人間も同じです。どこで生まれたか、どのような人生か、どんな大変なことがあったか、顔とか体とか素晴らしい価値があります。何をされてもその価値は下がらないはずです。戦争があり、差別が今でもあるのは、世界中の人は何があっても人間の価値を下げないと”決めていない”だけです。このクラスの中では、どんな過去があってもどんな人でも皆同じ価値があると、ここで約束をしてからクラスが始まるのです。

    1000円札

    インタビュアー感想:
    いつ会っても元気度が他人のレベルと違う非常にエネルギッシュな先生です。“他人の夢を応援する”という考えは、ギャスライト先生が幼かったときにお祖父様から伝えられた言葉だったと伺っています。心優しく、何事もチャレンジする姿は、学生にはもちろん同世代としても羨ましい存在であり、目指すべき存在と感じます。

    ジョン・ギャスライト
    人間力創生教育院教養課題教育プログラム(人文・社会リテラシー)教授
    専門分野 ツリーセラピー研究

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