ワクワク好奇心研究室 Vol.31 

お知らせ

    野田明子先生 生命健康科学部生命医科学科 教授

    睡眠医学をやってみようと思われたきっかけは何でしたか?

    ― 心血管病や産業事故と密接に関係する睡眠時無呼吸の患者さんに出会ったことと思います。睡眠時無呼吸は1973年に発見され、Scienceという雑誌に報告されました。その後、スタンフォード大学のクリスチャン・ギルミノー先生により、1976年に命名されました。名古屋大学でも同時期に岡田保先生により睡眠時無呼吸が発見されていました。

    先生は学生時代に無呼吸状態があることに気づいていたということですね。

    ― 学生時代に睡眠時無呼吸の診断検査である睡眠ポリグラフ検査をしばしば見学しました。その際、睡眠時無呼吸から呼吸を再開する時に心拍数が速くなることに興味を持ちました。病院勤務になり、循環器内科の先生に睡眠時無呼吸と心疾患との関係を尋ねましたが、特に注目されておりませんでした。その後、睡眠時無呼吸の基礎研究が最も進んでいたカナダのトロント大学に留学されていた名古屋大学の安間文彦先生に出会うこととなり、睡眠時無呼吸と循環器疾患についての臨床・研究が進行しました。

    2004年トロント大学における睡眠・呼吸生理学研究者フィリプソン先生の
    功績を讃えるシンポジウムに参加された安間文彦先生
    右から名古屋大学名誉教授の岡田保先生、中央は睡眠医学創始者でスタンフォード大学教授のウィリアム・C ・デメント先生、京都大学名誉教授・睡眠研究者の早石修先生、初めて睡眠時無呼吸の治療として持続陽圧呼吸(CPAP、シーパップ)療法の効果を示したシドニー大学教授のコリン・サリバン先生と

    睡眠時無呼吸の症状はどのようでしょうか。

    ― 昼間の耐え難い眠気とご家族が気づく「いびき」です。いびきの中には規則的に発生するいびきと不規則に発生するいびきがありますが、睡眠時無呼吸では後者にあたります。リズムの違ったいびきが発生した場合は、睡眠時無呼吸が合併している可能性が高く、睡眠の質が悪くなるので、集中力・注意力の低下が起こります。昼間に眠たいというのが主症状になります。

    心臓の覚醒 (睡眠時無呼吸に伴う心拍数の上昇)

    ご夫婦であればお互いにチェックできますね。

    ― いびきが規則的か不規則かのチェックが重要になります。

    例えば不規則ないびきがわかった時にどうすれば良いでしょうか。

    ― 少し体位を変えるのはいびきや無呼吸の改善に効果的です。鼻閉による開口がありますといびきや無呼吸は悪化します。

    睡眠時無呼吸であることで何が起こりますか?

    ― 無呼吸に伴い、覚醒が起こり、さらに、血中酸素濃度が低下するため低酸素状態になります。その結果、睡眠時無呼吸により、脈が速くなったりします。これは交感神経活動が亢進している状態になります。従って、寝ているにも関わらず日常生活の中で走っているような状態が持続し、寝たのに疲れている、眠たい、起床した時に頭痛がするなどの症状がみられます。

    放っておくとどうなりますか?

    ― 交感神経活動が上昇するので血圧が高くなってきます。24時間血圧測定により夜間の血圧の降圧が欠如したりや早朝高血圧を評価できます。睡眠時無呼吸の方は、呼吸停止で苦しいので頻回に起きることで夜間の血圧が上昇します。毎日夜間に血圧が上がったり下がったりし、血圧変動が大きく、昼間にも血圧が高くなり、動脈硬化、さらに心血管病、心不全が進展します。

    これは大変なことですね。

    ― 高血圧は心血管病、すなわち心筋梗塞や脳梗塞、認知症に関係するという病気ですから、睡眠時無呼吸を予防するのは非常に重要です。夜一人で寝ている方はわかりませんので、ご家族やお友達と旅行に行った時に「いびき」を指摘され発見されることが多いです。

    この病気が日本で報道されるようになったのはいつになりますか?

    ― 2003年2月の山陽新幹線で起きた居眠り運転により、睡眠時無呼吸がどのような病気であるかを世間一般に知られるようになりました。これは、日本社会に大きなインパクトをもたらしました。睡眠時無呼吸の患者さんでは交通事故が多く発生しますが、適切な治療を受ければ、事故を防ぐことができます。

    治療の方法はありますか?

    ― 重症の方の第一の選択治療は、空気で上気道を広げる持続陽圧呼吸療法で、Continuous Positive Airway Pressure の4つの頭文字を取ってCPAP(シーパップ)と呼ばれています。第2の選択治療として、歯科で作成していただく口腔内装置を睡眠中に装着します。これは、下あごを前に引き出す、舌が喉の奥に沈みこむのを防ぐ作用があります。睡眠時無呼吸を改善するために、肥満を軽減する、飲酒を控える、運動をするなど、自分で習慣的に行ってもらいたいものです。

    持続陽圧呼吸(CPAP、シーパップ)療法
    CPAP療法の上気道への影響
    重症睡眠時無呼吸患者の自然睡眠時〈上気道閉塞時〉(左図)とCPAP療法時の上気道開存時(右図)

    中部大学で2017年に睡眠相談室が学内にできた経緯を教えてください。

    ― 社会の夜型化やライフスタイルの多様化より、睡眠不足や睡眠・覚醒リズムが不規則となり、不眠・過眠を訴える大学生が増加しています。ソーシャルメディアの利用と睡眠障害との関係を検討した報告では、その利用時間は睡眠障害の程度と関係したことが示されています。睡眠時間の短縮・睡眠覚醒リズムの破綻および抑うつは、遅刻・欠席の増加、集中力および学業成績の低下と関係することが示されています。これらはおそらく休学・退学にも悪影響を及ぼしている可能性が高いことが考えられます。このような背景の下、2017年、本学健康増進センターに睡眠相談室が設置されました。

    睡眠相談

    実際に学生さんの利用でどうなりましたか?

    ― 症状が軽い学生さんは、睡眠教育をすることによって多くが改善しました。

    第一に寝る前のスマホで光を浴びるので, スマホ使用法について指導します。午前から授業がある場合と午前の授業がなく午後からの授業のみの場合がありますと、1週間の起床時刻、睡眠時間帯が不規則になり、過眠や不眠症状が起こることが多いため、毎日の起床時刻を整えることを指導しています。過眠・不眠のみならず、不安・抑うつ症状が認められますと、改善に時間を要しますので、睡眠に問題を持つ学生さんは早めに睡眠相談室を訪問いただくのがよいでしょう。

    実はこの放送の前に睡眠相談室に行って、睡眠の腕時計をして4日間試させていただきました。

    ― それは、アクチグラフィという客観評価法で、睡眠の質が良いかどうかをこれで明らかにすることができます。それを使用して記録した睡眠の質が良い症例1と悪い症例2の1週間の睡眠・覚醒リズムを示します。緑色部分は睡眠、黒色部分は活動時間帯、ピンク色部分は機器を外していた時間帯です。症例2では、緑色部分に黒い部分が多く、中途覚醒が認められます。また、症例2では夕方に緑色の部分(仮眠)がみられます。症例3では、就寝時刻のばらつきが大きく、睡眠覚醒リズムの乱れが明らかです。したがって、これを用いることで、睡眠中に問題があるか否かが明らかになり、適切な指導に繋がります。

    アクチグラフを用いた睡眠・覚醒リズムの記録
    症例2では中途覚醒が認められ、睡眠の質が低下しています。
    アクチグラフを用いた睡眠・覚醒リズムの記録
    睡眠効率は97.6%と高いですが、就寝時刻のばらつきが認められます。

    先生の所属している生命医科学科だけではなく6学科を持つ生命健康科学部は、病院を持たない大学では、全国で初めて設置された学部ということですね。

    ― はい、連携大学のオハイオ大学が生命医科学科の見本とお聞きしております。医療の現場では、病気の前段階を対象とした予防、健康を維持するための創薬、医療技術の開発が望まれています。中部大学は総合大学として、多元的に発展できるよう、それらを担う人材育成、地域連携、国際連携も目指し、生命健康科学部が設置されています。

    2019 年オハイオ大学で睡眠研究国際連携
    2021年度客員教授としてオハイオ大学訪問時のWelcome Reception

    インタビュアー感想:
    睡眠医学という分野に着目された先生ですが、若い頃は周りの医師に相手にされなかったことを乗り越えて突き詰めた事が功を奏し、現代の睡眠事情を見ても先見の明がおありになったと感じました。睡眠時無呼吸によって本人のみならず周りを巻き込む大事故になるかもしれない危険がはらんでいるかと思うと、単なる「いびき」ではなく重大な健康と社会問題をはらんでいる「いびき」として見ることが大切ですね。睡眠相談室がある大学は珍しいと思いますので、学生さんは有効に利用して欲しいと思います。

    野田 明子
    生命健康科学部 生命医科学科 教授 
    専門分野:循環器病態学、睡眠医学、臨床生理学、神経・心理学、臨床検査学

    中部大学について