ワクワク好奇心研究室 Vol.16 

お知らせ

    武田誠先生 工学部都市建設工学科

    先生のご研究はどのようなものでしょうか。

    ― 一つは水災害で、都市浸水の解明と対策です。もう一つは水環境で、堀川や長良川河口堰の上流下流の水質など、水に関わるものを対象に研究をしています。

    ここ10年の水の氾濫はどう捉えていますか。

    ― ここ数年は巨大な災害が多いです。例えば九州北部豪雨や西日本豪雨、千曲川でも氾濫が起こり、甚大な被害が出ました。河川の整備はまだ完成していない状況にある上に、さらに、計画規模よりも大きな洪水も生じています。気候変動の影響もあって、最近は危険な状況がたびたび発生しています。

    令和元年東日本台風による
    長野市穂保地先の堤防決壊、浸水被害状況

    先生のご研究は、どのように氾濫が広がっていくのか、災害に繋がっていくのかですね。

    ― 都市の中は複雑で、建物があり、小河川があり、地下空間があります。大規模な浸水が都市で起こったら、地下空間の中に水が入る危険性もあります。例えば地下鉄が水没してしまうと人の命に関わるので、そのような状況を予測し、対策を講じることが研究のテーマです。東京メトロでは浸水対策を積極的に行っています。

    名古屋圏はどうなのでしょうか?

    ― 名古屋も対策しているのは聞いていますが、まだ公開されていない状況なので、もう少し社会の中で認知される方が良いと思います。

    下水、汚水処理の話ですが、雨水の排除の問題と絡み合っているのですね。

    ― 都市の中の水の排除は下水道が担っています。下水道は計画降雨量があって、例えば時間雨量50mmとか60mmを設計の基準としています。ゲリラ豪雨と呼ばれる雨は時間雨量100mmぐらい降りますので、その場合どこかで浸水が起こることになります。現在、下水道整備を進める、地下貯留施設を作るなど、都市の浸水対策が進められています。 また、下水道の整備には合流式と分流式があって、合流式は汚水と雨水を一つのシステムとして排水しています。分流式は汚水と雨水を別々のシステムとして排水しています。

    春日井市雨水出水浸水想定区域図
    出典:春日井市役所HP

    名古屋はどちらですか?

    ― 合流式です。東京、大阪など昔ながらのところは合流式になっています。

    それが川に流れていくわけですよね。

    ― 雨が降った時に川の中には雨水が入ってきます。汚水が処理場に行きますが、処理場も受け入れる量が決まっているので、処理できない余分なものは未処理のまま直接川に流れていきます。

    少し川が臭いというのはそこからなんですね。

    ― 雨水後には堀川などは臭ってきたりします。

    自然災害で記憶にあるのが、今から64年前の伊勢湾台風ですが、現在生じたらどのような被害になりますか?

    ― 現在の堤防高では伊勢湾台風による高潮や高波を想定しているので、大きな被害にはならないと思います。ただし、伊勢湾台風当時からすると、濃尾平野は地盤沈下が生じています。昔、地下水を汲み上げていて、その影響で地盤が沈下しているので、場所によっては1メートルを超えるような沈下があります。ですから、仮に、同じような規模の水害が起こった場合は、もっと浸水の規模が大きくなる可能性があります。

    決壊した海岸堤防(半田武豊)
    協会伊勢湾台風50年誌より
    決壊した山崎川右岸堤防(名古屋市南区)
    建設省編伊勢湾台風災害誌
    発行:社団法人全国防災協会
    伊勢湾台風による浸水浸水図
    出典:中部地域づくり協会HPP

    対策はなされているのでしょうか。

    ― 現在、スーパー伊勢湾台風(1959年の伊勢湾台風を超える規模の台風)に関する検討が行われています。TNT(東海ネーデルランド高潮洪水地域協議会)という協議会が立ち上がって議論をしています。台風は事前に来ることが予測されますので、危険な状況であれば早めに避難することを検討しています。避難場所は遠いところを想定しています。しかし、実現にはまだ多くの課題があります。例えば台風が来る1日前は晴天であったりします。その状態で逃げるとなると、学校を休校にするとか会社の出勤を止めるなどしなければなりません。アメリカではハリケーンが来る前の広域避難が実施されています。日本での広域避難の実現に向けて議論しています。

    都市の氾濫をテーマとしたご研究は、京都大学院時代の指導教授の影響だったと伺っています。

    ― 京都大学の指導教授井上和也先生は日本で初めて氾濫解析を実施した先生です。他にも都市浸水に関する研究のスペシャリストの方々がたくさんいらしたので、その影響を受けて今の研究を進めていると思います。

    最近では気候変動という言葉を多く耳にしますが、先生の研究には影響はありますか?

    ― 気候変動の影響を受けて豪雨が多くなり、その結果大規模な洪水が発生する恐れもあります。大規模な洪水の対策は河川だけでは難しいので、流域全体で考えないといけません。私は都市の中の浸水を一つの研究のテーマとしていますが、流域全体の浸水被害も抑えたいと考えています。その対策には流域治水があります。降った雨が直接川に流れてきて洪水になりますので、その雨を流域で浸透させ貯留して河川への流出を抑えることができれば、河川の流量が減るので洪水被害を抑制することができます。例えば、田んぼなどの利用や、上流中流のダムや遊水池を活用するなどして、川の流量を減らすための上手な仕組みを作ることは重要と考えています。

    特定都市河川流域におけるハード・ソフトの取組イメージ
    出典:国土交通省

    話は全く変わります。2022年から始まっているSDGs学際専攻の取りまとめ役をおこなっていらっしゃいますね。

    ― 2022年度は先行的に3学部(工学部、国際関係学部、人文学部)だけで、SDGs学際専攻という教育プログラムが動いていますが、そのワーキンググループの中で議論をして、全体を取りまとめました。現在は全学部で行っています。

    SDGs学際専攻
    SDGs学際専攻

    SDGs学際専攻は全学部で取り組んでいきますが、このプログラムのゴールはどこになりますか?

    ― 一人ひとりの学生が、SDGsを理解して、得た知識を社会に繋げることがゴールだと思っています。社会に出ると分かると思いますが、一つの専門知識だけでは通用しません。学科の専門知識のプラスαのところをSDGs学際専攻で補って欲しいと思っています。

    最後に都市建設工学科とはどういう学科ですか?

    ― 都市建設工学科(土木工学)は多様性が重視される学科です。それぞれの研究は、まちづくりや人の文化と密接に関わっています。社会基盤を担う重要な学科であると思います。

    インタビュアー感想:
    生物にとって水は命ですが、それが時には命を奪ってしまうものにもなり得ます。日本人は昔から水災害という大自然の恐ろしさに直面しながら、より安全であるための工夫を凝らしてきました。現代の暮らしは一見昔よりも安全に暮らしていけると思いがちですが、先生のご研究で新たな課題が山積しているのでは?と、社会基盤の不確実さを思いました。

    武田 誠
    工学部 都市建設工学科 教授
    専門分野:水工学、都市耐水 (水環境問題、水災害における防災対策のあり方)

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