ワクワク好奇心研究室 Vol.4 

お知らせ

    伊藤佐奈美先生 現代教育学部現代教育学科

    先生は特別支援学校で35年間携わられたというその道のベテランですが、それを目指したのはどのような経緯だったのですか?

    ― 大学学部では心理学を専攻しており、特別支援学校(当時の養護学校)の存在を知りませんでした。児童精神科の外来で自閉症の子供たちと出会って、通じ合った時の嬉しさ楽しさに魅せられ、更に人の心や感情に元々興味があったこともあり、毎日の生活の中で子どもたちと深く関わることができる特別支援にやりがいを感じました。

    今、特別支援教育の状況はどの様になっているのでしょう?

    ― 自閉スペクトラム症など発達障害の子どもたちは増えていると言われています。アメリカの疾病予防管理センターの調査が統計で用いられますが、それによりますと、2000年には150人に一人が自閉症発症ですが2016年には54人に一人の報告があり、発達障害という概念が注目され明らかになってきて診断の頻度が増えてきたとも言えるのではないでしょうか。以下は、2023年のアメリカ疾病予防管理センターが定期的に行っている8歳児の自閉スペクトラム症の子の割合を示したものです(日本自閉症協会広報部PDFより)。

    その自閉症の子どもたちが活躍している場もあるとのことですね。

    ― 障害者雇用は少しずつ進んできています。法定雇用率が引き上げられて企業も障害のある人を雇用しなくてはならない現状があります。その中で障害のある人達がアートの世界や自分の能力を発揮できる場が増えてきています。芸術の部分では、アート雇用と言ってアーティストとして色々なポスター、企業の広告宣伝を在宅でする人もいて、画家として実力を発揮している人もいます。愛知県でもアール・ブリュット展、障害者の芸術祭など開催されています。

    障害者アーティスト川部さんの絵
    障害者アーティスト川部さんの絵

    眼の前にティッシュボックスがあります。描いている絵は障害のある子どもたちが描いた絵ですがものすごく細かく描かれていて可愛らしい絵になっていますね。

    障害者アーティストによるテッシュペーパー箱用の絵

    35~40年の間、障害者の方とともに教育の中で過ごされてきたわけですが、教えられるものは何でしょうか?

    ― 障害があるというと皆さん気の毒だとか可愛そうだとおっしゃる方もいますが、子どもたちにとっては障害があることも含めてその人の人生であり、そのことを不幸だと思うわけではなくひたすら生きていらっしゃいます。そのひたむきさに対して外からその人のことをどうこう言うことはないと思っています。大学を出て2年目の時、肢体不自由児がいる学校に赴任しましたが、こちらがすぐ手伝ったりやり過ぎたりしたことを子どもに叱られた経験があります。「僕のやることだからやらないで」と言われ、はっと気づいたのです。この子の人生に立ち入っちゃいけないと思いました。ついつい手を出したり守ってあげたくなりますが、その人が歩んでいく人生なので、私たち支援者は上手くやれるように整えたり、もっと良い方法がないかと一緒に考えたりすることが大事なのだと、その時小さな子どもたちに教えてもらいました。

    先生の35年間という長きに渡って教育に関わって来られたからこそのお言葉ですね。中部大学の現代教育学部は特別支援学校の免許も取れるとのことで、このような大学は数少ないと聞いています。

    ― 現代教育学科の小学校・中学校の教職課程に関わる先生方の中には、研究に携わっていらっしゃる先生の他に、学校現場を経験してきた教員が多くいます。私もその一人です。教員として社会に学生が出たときに、実践的な指導力を身に着けて卒業してもらいたいと考えていますので、教育実習の他に、色々な機会を捉えて実習、観察、学生ボランティアの機会を作り、子どもたちと多く触れ合って理解することを考えています。2022年、2023年と継続して春日井市を中心に障害のある方(幼児から青年まで幅広い年齢層の方)と中部大学の学生が交流しながらアート作品を制作するイベントを開催しました。保護者や支援者も交えて、それぞれが自由に絵を描いたり、作品を作ったりする中で交流し、お互いを理解し合うとても良い機会になったと考えています。

    机上だけでは教育はできないということですね。どのような教員を育てたいですか?

    ― 私のゼミの学生たちも全員が特別支援学校の教員になるのではなくて、小学校の教員として卒業していく者もいます。通常の学校でもインクルーシブ教育といって障害のある人も健常者と同じ地域の学校で学ぶことが推進されていますので、特別支援教育を学ぶことは、一人一人を大事に見る、その人の状況にあった指導を工夫する視点をもつことに役立っているのではないかと思います。小学校に務めたとしても、子どもたちの理解や指導に役立てて実践して欲しいですね。

    障害を持つ子どもたちと触れ合うことは、その保護者の方々とも触れ合ってきたということですね。

    ― 学生ボランティアの中には障害のある子どもたちとの関わりで戸惑いがあります。その場合、保護者の方が家でどうしているのかを聞いてみることを勧めています。この子たちが育ってきた歴史をお母さんたちが一番知っているし、子どもたちに合った関わり方をお母さんはご存知なのでその部分を大事にすることを伝えています。医療にかかっている子どもであれば医療との連携も必要であるし、地域の方々との連携も必要になってきます。

    特別支援学校のキーワードは「チーム」です。チームで支えることが大切です。決して一人でなく皆で考えていけますから、特別支援学校で先生方と情報交換したり、支援について話し合ったりしながら教育に携われたことは非常に有り難かったし楽しかったです。

              2023年7月 実施分 70号館学生ラウンジに大きな3枚の絵を展示しています。

    若者へのエールをお願いします。

    ― なりたい姿、夢を実現するのは、行動するしかありません。できることやるべきことを誠実にやり続けることが大切です。じっくりと楽しみながら取り組まれるといいなと思っています。

    インタビュー感想:                                          適材適所という言葉があるならば、伊藤先生はまさに障がいがある子どもたちと共にあり、40年の障がい者教育を試行錯誤しながら前に進めてきた先生であることを強く思いました。弱い立場の足元から見えてくるものに教育全般の根本があるような気がします。                                                                                                                                                  

    伊藤 佐奈美
    現代教育学部 現代教育学科 教授
    専門分野 特別支援教育

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