ワクワク好奇心研究室 Vol.17 

お知らせ

    塩澤正先生 人文学部英語英米文化学科

    殆どの日本人は中学校から高校まで6年間の英語教育を受けていますが、英語が苦手という方が少なくないと思います。そこで登場したのが「国際英語論」という先生が専門にしている教育論ですね。

    ― 「国際英語」というと世界共通の英語をイメージしますが、実はそのようなスタンダードがあるわけではなく、世界にいろいろあるインド英語、フィリピン英語、オーストラリア英語というものがありますが、それぞれその国で文化や母語に触れて発達し変わってきた英語の総称です。それはイギリス英語がアメリカ英語に変わったように自然のことであって、インターネットの時代ではあっという間に世界で動けるようになって、加速度的に英語が変わってきています。このような多様な英語を認めて尊重してあげようというが、「国際英語論」の元々の考え方ですが、それを今は英語教育でも活かそうという考え方があります。

    「国際英語論」著書

    今までの英語教育との違いは何でしょうか?

    ― 1つ目はネイティブスピーカーを目標にしないということです。元々その土地で生まれていないから無理があります。日本人は日本人らしい英語を話したほうが自然です。逆にネイティブスピーカーの英語をモデルとして学んでも、誰もネイティブスピーカーの様には話していないという事実があります。自分の頭の中と、文化と母語を通して口から出てくる英語は、基本的にはアメリカ英語のような日本人英語にしかならないわけです。

    2つ目は、ネイティブスピーカーのように話さなくて良いということで、心に余裕が生まれます。間違えてもいい、それよりも通じることが大切であるとします。

    日本人がなかなか英語が上達しないと最初に言われましたが、一番の問題は英語を学んでいるけれど英語を使っていない、つまりインプット、アウトプット、インターアクションが無かったことが、英語が上達しない原因であったのです。水泳、剣道、ピアノと同じで、やってみなければ上手くなりません。知識として学ぶだけでは上手くならないのは当たり前のことです。

    インプットの少ない日本の中学の授業風景

    英語を使う時間を多くすれば良いのでしょうか?

    ― 時間を多く使うことだけではなくて、「意味のあるやり取り」(meaningful)をしっかり沢山することです。自分にとって意味のあることが学習につながるという考え方です。

    例えば、英語の授業で隣の人に、“What’s your name?” とわかっていることを聴くこと事態、意味のないことですね。小学校や中学校の授業の最初にある、“What day is it today?” や “How is the weather?” と聞きますが、今日は月曜日に決まっているし、天気は外見れば分かるじゃないかという話になりますので、この言語活動事態は意味がないことです。これでは、言語学習はしても言語習得にはならないのです。

    子どもの言語習得を見ていればわかりますが、目的を持って何かを発話してそれが返ってきて意味のあるやり取りだった時しか習得が起こらないわけです。アメリカ人の子どもが英語の発音を練習してからお母さんと会話することは有り得ないわけです。(笑) 言語習得は、本来は目的のある意味のあるやり取りをして、それが成立した時に習得されていくという考え方です。

    日本人は、通じる日本人らしい英語を話した方が自然であり、日本人がアメリカ人のように話したらそれは逆におかしいです。帰国子女なら当たり前ですが、そうではない人たちが無理やり、”My name is Tadashi Shiozawa” の“da”と”za”にアクセントを置くのは、なんとなくおかしいです。もっとアイデンティティを持って話すなら、“My name is Shiozawa Tadashi”と平坦に日本語らしく言って、相手が分からなければ言い直せばいいわけです。

    JRのアナウンスも同じことをしていますね。“The next station is Kozoji”と“Zo”にアクセントを置く言い方は誰もしなくて、”Kozoji”の発音は日本語発音で平坦で良いのです。後者のほうが心に訴えてくるので、日本人なまりはあった方が良いと考えます。その方が気が楽になって学習には効果的ですね。

     日本人英語に自信を持たせる言語活動
    高蔵寺駅と電車

    今日もCBCのスタジオに来る時に、そのアナウンスを聞いてきました!

    ― 新幹線だけはネイティブスピーカーの録音ですが、東京も同じで、他のJRのアナウンスや他の電車もアイデンティティに関わるところは、もっと自分のアイデンティティを出していこうという発想があっても良いと思います。そしてそれが世界の兆候だと思います。

    中部大学はアメリカオハイオ大学と50年間の交流がありますが始まりを教えてください。

    ― 1973年からの始まりで、中部大学工学部工業物理学科の勝守先生の関係でオハイオ大学との交流を持つことになりました。大学院には中部大学から合計97名、一学期間の長期の留学も1700人以上の学生がいままでオハイオ大学で学習しています。1990年にはオハイオ大学から5人の先生方が来て、中部大学の中にもう一つのパセオプログラム(語学学校のようなもの)が出来て、そこで学生は語学を学ぶことが出来ました。その先生方に20数科目の専門の授業と、専門の授業以外に授業を受けることが出来ましたので、外の語学学校に余分に行く必要もない形を作りました。

     協定書にサインする三浦幸平学長(右)
    左は徳広副学長
    パセオの授業
    パセオの先生がた

    このコースの充実度が満載だということですがどのようなものでしょうか?

    ― contentコースと言って、英語を通して他のものを学びます。例えば、英語を通してアメリカ政治、英語を通してアメリカ映画、英語を通して日本文化を学ぶなど、中部大学にいてアメリカの授業を受けられるような、留学が簡単にできるような仕組みが大学の中にあるということです。単に英会話をするというより、content(内容)を持って英語で会話やディスカッションするというコースに人気があります。英語で映画を学ぶが大人気です。映画を見て、そこに現れるアメリカ文化をディスカッションするとか、自分たちでシナリオやビデオクリップを書いて映画を作るなども行います。

    名作映画で楽しむ英会話DVD全集
    学生が作った英語の映画

    それを行ったがゆえに将来の道が決まった学生がいたのでしょうか?

    ― 学部学科学年も関係なく自由に取ることができて、何回取っても良いのです。元々海外の大学院に中部大学の学生を送り込みたいという発想から、エリートコースとして始まったのですが、あまりにも人気があるので一般にも開放して毎学期3~400人の学生が履修していて、大学院への進学や教員になるなどしている学生はほとんどこのプログラムの参加者です。

    オハイオ大学が非常に美しい大学ということでアメリカでも有名だそうですね。

    ― アメリカではアパラチア山脈という大きな山脈が東に位置します。それより以西の最も古い大学で、全てレンガ造りで出来ています。“アパラチアのハーバード”というニックネームがついているくらいきれいでレベルも高い大学です。全米で毎年の「美しい大学、美しい大学街ランキング」が出ますが、1位に入ったこともありますし、毎年必ずトップ10にオハイオ大学が入ってくる、絵に書いたようなアメリカの大学です。

    オハイオ大学の正門(アラムナイゲート)
    大学100周年の時に卒業生たちから送られた
    大学のシンボル
    オハイオ大学内
    中部大学に寄贈されたロタンダが乗っている学舎

    いつか行ってみたいなと思いますね。

    ― 留学した殆どの学生が、「もう帰らなくていい。ここで勉強したい!」と言い出します。

    レンガ造りが美しい大学街の中のオハイオ大学全景

    中部大学の留学生に対する手厚い援助があるとのことですね。

    ― 短期でも長期でも殆どの学生が何らかの奨学金を得ることが出来ます。

    長期研修ですと、参加するだけで全員に10万円を支給します。JASSO(日本学生支援機構)の留学のための奨学金制度がありますが、そこからも学生には月々8万円、合計で32万円出ることがあります。学業成績が一定の水準を満たしていれば、10万プラス32万円で、42万円の奨学金を貰え、返す必要がありませんから行かないともったいないプログラムです。
    またオハイオ大学大学院にも、奨学金留学制度を通じて毎年最大6名行くことが出来ますが、そのうちの4名は授業料が免除、生活費が約1万ドル(150万円 (2023年11月現在))支給されます。アメリカの授業料は本当に高いので、それを免除してもらって生活費を貰えるのはこれ以上ないような援助で、手厚い支援ですね。

    留学先は、オハイオ大学だけではなくて、24カ国・地域と59の大学・機関があるということも付け加えておきますね。最後に若者へのメッセージをお願いします。

    ― “Actions speak louder than words”※ですね。これ、ナイキのモットーと同じ“Just do it!”で「動け」って言うことです。たまたまこれは中部大学の「不言実行」の精神と同じことです。思っていることと行動していくことは全く違うので、これが人間の差になってくるので、少しでも何かやろう!としている人たちは、行動してみて欲しいです。

    ※直訳は「行動することは言葉よりも大きく声を上げます」

    インタビュアー感想:
    私は社会に出て何年もしてからアメリカに留学したのですが、それまでに働いて貯めた資金はあっという間になくなりました。大学で留学ができ返済しなくてよい奨学金がいただけるのは非常に魅力的で羨ましい限りです。そして全米で最も美しい大学街ランキングに毎年入るオハイオ大学も行ってみたい、見てみたい、体験したいと思わせますね。何と言ってもスケールが日本とは全く違います。環境が人を創ると言いますので、その空気に触れてきた学生はきっとグローバルな人として世の中を生きていくのだなと感じます。

    塩澤 正
    人文学部 英語英米文化学科 教授
    専門分野:応用言語学、英語教育、異文化間コミュニケーション

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