ワクワク好奇心研究室 Vol.21 

お知らせ

    大嶋晃敏先生 理工学部数理・物理サイエンス学科

    宇宙線のご研究は具体的にどういうものですか?

    ― 宇宙線とは 、宇宙を飛び回っている非常に高い エネルギーをもった粒子の総称です。宇宙線がどこで作られるのか,まだ謎は多いですが、宇宙で起きる大規模な天体現象だといわれていて、超新星爆発などが有力な候補として知られています。皆さん、よくご存知だと思いますが、岐阜県にあるスーパーカミオカンデではニュートリノを観測しています。ニュートリノ は宇宙線の仲間ですが、物質とほとんど反応しないため、捕まえることが大変難しい粒子です。一方、私たちが着目している宇宙線は、水素の原子核である陽子を代表とする原子核宇宙線と、光の一種であるガンマ線です。原子核宇宙線とガンマ線は物質と反応するため、比較的簡単に捕まえることができます。中部大学宇宙線グループでは、高エネルギーの原子核宇宙線とガンマ線を通した宇宙の観測を行なっています。

    高エネルギー宇宙線を使って宇宙の謎を探る

    なんのために宇宙線というものを観測しているのでしょう?

    ― 宇宙線にはまだまだ謎が多く、その一つが宇宙線はどこで作られているかという問いです。私たちは宇宙線の観測を通じて、エネルギーの高い宇宙線を作っている起源天体を見つけようとしています。その他、宇宙線の成分を詳しく調べることや、どのようにして宇宙線が宇宙の中を伝わってくるのかといった問題についても調べていて、これらを明らかにすることで、星の進化や宇宙磁場の構造の解明につなげることができると考えています。

    宇宙線が地球にぶつかるとどのようなことが起こるのでしょうか?

    ― 地球には窒素や酸素を主成分とする大気があります。ほぼ真空である宇宙空間を飛んでいた宇宙線にとって、地球の大気は初めて出会う「壁」のような存在です。高エネルギーの宇宙線が大気に突入すると、窒素や酸素の原子核を破砕し、沢山の二次粒子を作ります。これら二次粒子は依然としてエネルギーが高いため、引き続き窒素や酸素の原子核を壊し、さらに二次粒子の数が増えていきます。この現象を「 空気シャワー 」と呼びます。やがて二次粒子のエネルギーが低くなると粒子の増殖は止まり、代わりに大気による吸収が始まり、二次粒子はエネルギーを失っていきます。地上まで到達する空気シャワー粒子の中には、電子やガンマ線、ミューオンといったさまざまな粒子が含まれます。私たちはこれら粒子を地上で検出することで、宇宙線の研究を行なっています。

    ミューオンを既に活用しているということでしょうか。

    ― ミューオンは不思議な粒子で、物質を突き抜ける性質が強い粒子です。もちろん、いずれ止まってしまいますが、透過力が強いという性質を利用して大きな構造物の透視など、最近ではエジプトのピラミッドを透視することに使われたり、活断層の透視に応用されたりしています。電波や音波探索では調べることが難しい大きな構造物の調査に使われています。中部大学宇宙線グループでは、ミューオンを使って雷雲の電位を測ることに成功しています。

    宇宙線によって大気中で作られる、ミューオンを含む 様々な二次粒子。
    エネルギーの高い宇宙線から生じた粒子の群れを 空気シャワー現象という

    なぜ宇宙線の観測をしているかの二つ目はなんでしょうか?

    ― 宇宙天気の研究です。私たちが進めている宇宙天気の研究は、太陽活動によって乱される地球の周りの宇宙空間の状態がどのようになっているかを調べるというものです。

    どの様になっているというのはどういうことでしょうか?

    ― 地球には地磁気と呼ばれる磁場があります。地磁気は太陽から吹き出した太陽風や、太陽フレア等の大きな爆発で発生するプラズマの塊から地球を守ってくれています。しかし、激しい太陽活動が起こると、地球の磁場を乱し「 磁気嵐 」と呼ばれる地磁気の擾乱が起こります。磁気嵐によって地上の送電網が破壊されたり、衛星に障害が起こることが知られており、近年ニュースなどでも取り上げられるようになってきました。宇宙線は太陽活動で変化する宇宙空間を通過してくるわけですから、宇宙線を観測することで、その空間の状態、とくに磁場の状態を知ることができます。

    太陽活動の影響を受ける地球の様子 (画像:NASAホームページより)

    今から20年程前ニューヨークに在住している時、アメリカ大陸東部のカナダからニューヨークにかけて大停電が起こったのですが、それはそういった自然現象でしょうか?

    ― まさにそれですね。磁気嵐そのものを宇宙天気と呼んだりします。宇宙天気を予測すると予め対策を取ることが出来るようになります。このことを宇宙天気予報と言ったりします。

    宇宙天気ですか~

    ― 宇宙天気は、高度に電子化された現在の人類社会において、すでに大きな脅威と捉えることができます。さらに20~30年後の人類が宇宙に進出し始める頃になると、宇宙天気の環境に出ていくわけですから、今後ますます重要になる分野だと思っています。

    さて、中部大学には凄い天文台があります。これを作るきっかけになった先生でもありますが、なぜ作ろうと思われたのでしょう?

    ― 私が中部大学に赴任して2~3年たった頃、周りの先生たちと話しているときに「最近の学生さんは、自然を観察することがなかなか出来ていないな」という話になりました。これは大きな問題で、実際にはどのようにして解決できるのか難しいですが、とにかく学生さんに自然をよく見てもらいたい、じっくり物事を観察してもらいたい、そのような場を提供したいと思ったことがきっかけです。

    中部大学天文台のタカハシ製 300mm 反射望遠鏡
    中部大学天文台の4m 天文ドーム

    その想いだけで「天文台」がそのまま設置されるわけではなく、先生は元々国立天文台の専門研究員でもあったので、先生のところに研究費として設置されたという有り難い話ですが、実際に観望会の主催をしていますね。

    ― きっかけは国立天文台からの助成金で購入した口径15cmの屈折望遠鏡でした。かなり大きな望遠鏡ですので観測のたびに出し入れするのが難しく、どのように屋外に常設しようかと悩んでいたところ、工学部のある先生が当時の飯吉厚夫理事長のところに連れて行ってくださいました。それが、中部大学天文台ができるきっかけとなりました。中部大学天文台では、まずは学生さん、そして大学の教職員、一般の皆様を対象としたイベントを1年目から始めました。中部大学天文台には、天体観測所という施設がありますが、そこには望遠鏡が納められたドームとプラネタリウムを上映するためのセミナー室があります。そこでは3Dメガネをつけて鑑賞するプラネタリウムが用意されています。

    3D プラネタリウムソフト Mitaka で表示させた土星
    (Mitaka: 自然科学研究機構国立天文台 4D2U プロジェクト)

    それが宇宙の中にそのまますっぽり入ってしまったような雄大なスペースへと導かれますね。

    ― 宇宙のスケールと私達の身の回りのスケールは、想像もつかないくらい大きく異なりますので、それを感じていただけたらなと思っています。

    これを皆様観られたら、「わ~~~~!!!」っというスケールを感じご覧になられると思います。中部大学は文理融合をモットーとしている大学でもあるのですが、その代表格として存在するのが中部大学天文台でもあるのですね。

    ― そう言っていただけますととても嬉しいです。天文学は、昔は星の位置を見て自分の位置を把握するなど、当時の人類社会と深いつながりがありました。もちろん、自然科学が発達するきっかけでもあるのですが、もともとは文系理系関係なく、多くの人が知らず知らずのうちに天文学の恩恵を預かっていたのです。まさに、天文学というのは文理融合の分野だと言えます。

    中部大学天文台には天文学や宇宙科学に関する書籍が、古書も含めて多く蔵書されている

    この夏(2020年)ある天体を捉えたようですね。

    ― ネオワイズ彗星です。今年(2020年)に入ってすぐにこの彗星の存在が確認されたのですが、地球に近づいてくるに連れて世界各地の天文家のみならず、アマチュア天文家が見始めたのです。中部大学天文台に所属している応用生物学部の学生さんが捉えてくれました。ちょうど梅雨の時期でしたので、曇の日が多かったのですが、天気予報をきちんと調べ、どこで一番よく観られるのかを調べて、中部大学の天文台で撮影しました。このネオワイズ彗星が次回見られるのは5000年後なのです。

    天文台学生サポーターが撮影した
    ネオワイズ彗星
    (撮影場所は中部大学天文台天体観測所)

    それをあそこの天体観測所で撮影に成功したと言うので、新聞にも取り上げられました。
    人文学部の学生さんが卒業研究にしていらっしゃるとのことですが、、。

    ― まだ卒業研究のテーマにはなっていませんが、考えているようです。これまで、珍しい天体現象は、その時々の社会に影響を及ぼしています。例えばハレー彗星が来たら皆が盛り上がるとか、そのようなものを社会学的に研究しようと考えているそうです。

    中部大学の周りの人々にも貢献をしているということですね。

    ―  プラネタリウムを観たいという地域の方々からのお問い合わせが実際にあります。僕たちは出張観望会のイベントをしていて、近くの小学校に出かけて行き小学生たちと観察する会も行っています。

    この天文台が中部大学にあるから入学した学生もいらっしゃるようですね。

    ―  実際にそのように言ってくれる学生さんがいます。それはとてもとても嬉しいことですね。

    最後に若者に一言お願いします。

    ―  天体観測は基本的には夜に行うことがほとんどです。天体の写真を撮ろうと思っても時間をかけて光を集めないと撮れないということもあり、なかなか根気のいる作業です。そのために準備するのも、後処理をするのも根気がついてまわります。天文学に限らず、どんなことに対しても、物事をよく観察し、考えて、やりたいことを実現するために一つ一つ積み上げていく癖をつけてもらいたいと思います。それが一番の近道です。

    インタビュアー感想:
    苦手な物理領域はほとんど雲を掴むようなもので、「宇宙線」と言われても「宇宙船」を連想してしまうほどの私。目に見えないものは厄介ではありますが、人類にとってとてつもなく飛躍をもたらすものであることは理解できました。大きなエネルギーの中で暮らしていることの有り難さを、先生を始めとした研究者の方々の研究魂のおかげであることを思います。また、中部大学天文台学生サポーターが自由に使用できる大きな天文台が大学の中にあることの驚きを、再び感じております。

    大嶋 晃敏
    理工学部 数理・物理サイエンス学科 
    専門分野:宇宙線実験物理学・天文学、高性能計算機システム

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