ワクワク好奇心研究室 Vol.15 

お知らせ

    橋本美彦先生 現代教育学部現代教育学科

    現代教育学科は教師を養成する学科です。先生は、愛知教育大学を卒業されて理科の教師になられたとのことですが、どのような経緯をたどられたのでしょうか。

    ― 5年間小学校で教えた後、3年間中学校の教師になり、次に大学院で修士号を取ってその後中学教師に戻り長らく教えてから教頭、校長を勤めて、中部大学に参りました。

    34年間現場にいらっしゃったのは、素晴らしいですね。理科のどのようなところが面白いと思われますか?

    ― 1つ目は大学生に毎年アンケートを取りますが、小学校の理科が好きだった、実験が楽しかったという感想がとても多いです。観察や実験を通して学ぶということが理科の面白さの一つですね。2つ目は、子どもたちが生まれてから現在までの生活の中で自分なりの考え方を身に着けているということを「素朴概念」と言います。それらの多くは間違った概念、すなわち「誤概念」なのです。それを理科の学習を通して、科学的な概念に変えていく楽しみがあると思います。

    それは具体的にどういうことでしょう?

    ― 小学校の3年生の理科で「重さの保存」を学びますが、先生が体重計に乗り、「最近太ってしまったな、60キロになってしまった。」と言います。次に「先生が片足で体重計に乗ったら何キロさすだろうね。」と聞いたら子どもたちは、「えっ???」と思うのです。

    これを調査したら、「重さの保存」を勉強していない小学校1年、2年、3年生の子どもたちは「半分になる。」と殆どの子どもたちが答えるのです。

    すぐに答えを見せるのではなくて、他のものを使って調べてみよう!ということで、粘土の塊を配り、形を変えて測ったり、細かくちぎって集めて測ったり、アルミ箔を伸ばしたまま測ったり、丸めて測ったりすると、変わらないということがわかります。

    最後に、「先生も片足で乗ってみようかな」と言って体重計に乗ると60キロで変わらない。このように子どもたちの素朴概念を科学的概念に変えていく面白さがありますね。

    重さの保存

    大学院に進まれたことによって変わられたことはありますか?

    ― 研究する面白さを学びました。大学院修了後、そこで出会った他県から来ていた中学校の理科の先生と共同で研究し論文をいくつかの学会で発表しました。疑問に感じていたことや新しい指導法を研究し、その効果を明らかにしていく過程がとても楽しかったです。

    ご研究の“学習の転移”とはどのようなものでしょうか?

    ― 子どもたちが数学の問題を見ると、数学の授業で習ったやり方で解かなくてはいけないと考えます。理科の問題は、理科の授業で習った方法で解かなくてはいけないと思います。これを「文脈依存性」と言います。しかし社会に出たら、どの力を使ってでも解決しなければならないわけですから、もっと応用的な解決の仕方をしても良いのではないでしょうか。そういう意味で、数学の問題を理科で習ったやり方で解いてもよいという考え方を“学習の転移”と言います。これを意図的に中学生にアドバイスすると、数学を難しいと感じている子どもは、理科で習っているやり方で解いても良い!と思い、解けてしまうと面白いですね。そのような研究です。

    先生は理科と数学のみならず、理科と音楽、理科と家庭科、理科と国語、理科と社会科といろいろな学びを超えて教えていらっしゃいますね。

    ― 色々な学びが繋がっているというのを子どもたちは感じてくれているようです。

    理科と家庭科1
    理科と家庭科2

    理科と音楽科
    ペットボトル楽器
    理科と音楽科2
    ペットボトル楽器

    先生が我が意を得たりと思った方がいらっしゃるようですね。

    ― 瀧本哲史さんという方が、日本の教育は一つのことを深く掘り進めていく教育で、竪穴を深く掘るという学びだったが、これからはもっと広く色々な分野と関連付けながら学ぶ必要があると言っています。一つのことだけでなくて、他の学びを取り入れることによって幅が広がるので、子どもたちにも色々な学びを繋げていけるような力をつけて欲しいと思います。

    教師にとって大切なことはどんな事だと思われますか?

    ― 子どもたちは成長・発達の途中なので、すべての子どもたちに良いところがあるという見方をすることが大前提です。教師は人間が人間を育てる仕事なので、子どもたちを肯定的に見て肯定的な評価をし続けていき、成長させてあげることだと思います。凄い先生は子どもを変えていきます。それができる教師になる勉強をして欲しいですね。

    また、この授業を通してどんな人間を育てようかを常に考えて頂きたいです。例えば、理科の学びを通して気持ちの優しい子に育ってほしいと考えています。小学校1年生は朝顔を育てますが、毎日水やりに行きます。雨が降っても行きますね。人間が育てた植物は世話をしないと枯れてしまいます。そういう取り組みを通して優しさが理科で育つのではないか、これが理科教育の原点だと思っています。

    子どもの心を掴む理科教育
    3年ゴムや風の力
    子どもの心を掴む理科教育
    6年ものの燃え方
    子どもの心を掴む理科教育
    ジュニアセミナー(カルメ焼き)

    いじめの問題が教育と切り離せなくなってきた昨今です。34年の教職歴を持っていらっしゃる先生はどのように対処して来られたのでしょうか。

    ― いじめの問題は色々な原因や状況があるので、これが答えというものはないと思いますが、私ができることは3つあります。

    1つ目は学級の担任として、子どもとの人間関係をしっかり作るのが基本です。そのためには子どもを肯定的に評価していく。「昨日の〇〇君より、今日の〇〇君はこれこれがうまくなっていたよ。家で練習してきたんだね」と個人内で評価して、子どもと先生の間にしっかりとした人間関係を作ることです。2つ目は、学級の子どもたち同士をどう関係づけるか、生活面でも学習面でも同じですが、グループや班で声を掛け合って学び合っていく関係を築かせます。3つ目は教師が子どもをしっかり見るということです。よく見ていると小さな変化がわかります。すぐにその子に話しかけ、その子の反応を見て早め早めに対処していきます。子どもたちを変えていける教師が力のある教師と話をしましたが、「ここのグループは、頭を寄せ合って話し合いをしているよ!」と皆の前で肯定的な評価をします。

    「〇〇君が、ゴミを拾ってゴミ箱に捨ててくれた。素晴らしいね。そういう行動にできる子は心のきれいな子なんだよ!」と学級全体の場で言うと、ゴミを拾う子どもが増えていきます。同様に肯定的な評価を続けていくと学級を変えていけます。そして、ゴミが全く落ちていない学級になります。そうしますと子どもたちに「うちの学級はゴミが落ちていたらみんなが拾って当たり前、全くゴミの落ちていない学級が当たり前」というプライドができます。肯定的評価によってどんどん学級は変わっていきます。

    学級の歴史作り
    野球部通信

    先生のゼミ生が作った絵本が目の前にありますが、素朴な疑問から素晴らしい絵本になっていますね。

    ― 目的は、理科の勉強をしていない子どもに科学の絵本の読み聞かせを行い理科を好きになって欲しいという気持ちと、親子で読み聞かせを行って、最後に実験(食べ物系)を一緒にして親子の絆を強めていただきたいという思いがあります。

    学生が書いた科学絵本

    中学理科を教える大学が少ないと聞いています。

    ― 中学校の理科の免許を取るには、物理・化学・生物・地学のすべての実験を受講しないといけません。色々な材料・道具がいります。中部大学はその点、総合大学なので他学部からの応援もあり、とてもありがたいと思っています。

    インタビュアー感想:
    小中学校で先生の長年のご経験は、理科の面白さの再発見に繋がり、学生たちは理科教育の真髄を学んでいると確信しました。教員採用試験の面接官を長年務められた先生の強烈な質問があります。それは、「あなたは理科を通してどのような人間を育てたいか?」です。これから教師になる人には、どんな人間を育てたいかの信念を持っていることを強く望むというお話は、心に響きました。

    橋本 美彦
    現代教育学部 現代教育学科 特任教授
    専門分野:理科教育

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