ワクワク好奇心研究室 Vol.3  

お知らせ

    山下隆義先生 工学部情報工学科

    顔認識、人認識などAIの目に相当する研究から一歩進んだ、最も旬のディープラーニングのご研究ですね。

    ― ディープラーニングは人間の脳を真似しています。その脳の中にはニューロンという細胞があり、その細胞のような構造をコンピューターで模倣して階層的に複雑なことを判断できる仕組みになっています。脳の構造をコンピューターで真似して作ってしまうのです。

    計り知れないご研究との感じですが、どのように組み込んでいくのですか?

    ― 一つ一つのニューロンを人間が教えるのは難しいので、人が子供に教えるのと同じで、例えばこの画像は犬だ、この画像はペットボトルだと教えこんでいきます。どのパターンに反応したらいいかをニューロンが覚え込んでいく仕組みです。人間と違うのは、一度組み込んだらそれを覚えていることです。

    ニューロンが画像を覚える仕組み

    自動運転と言われて久しいですが、実際運転する時は前方だけでなく、バックミラー・サイドミラー、目に映る雰囲気や音など、運転しながらアクセル・ブレーキと同時にあらゆるところに感覚を研ぎ澄ましていますが、本当に自動運転は可能でしょうか?

    ― ディープラーニングを活用して、世界中で自動運転を実現する動きが出ています。人間との大きな違いは、「うっかりミス」をディープラーニングでは見逃すことは少ないです。これを活用することで自動運転の社会が一歩近づきます。

    人間の視野は120度~130度くらいはありますが、この点は補えますか?

    ― カメラは360度付けられ、カメラ以外のセンサーも付けられるので、だから人の目よりは見逃しが少ないと言えるのです。

    自動運転一般車走行

    うっかり運転がなく、アクセル・ブレーキを踏み間違えることもない自動運転ですが、その車が今、世界の何処かで走っているのですね。

    ― 世界中で実証実験は進んでいます。大手のアメリカの電気自動車を作っている会社は、優秀なドライバーに限って、自動運転のプログラムを組み込んでいます。

    「優秀なドライバーに限って」とありましたがそれもコンピューターが決めますか?

    ― 日常的に走っているデータは蓄積されてドライバーが優秀かどうかスコアリングされています。運転がしっかりできている上位の人には「インストールします」とコンピューターが選び出すのです。

    日本ではいつぐらいから一般道で実用可能になるのでしょうか。

    ― 「2030年を目処に実用化する」と目標にしているので、次回買い替える時は自動運転の車になっているかもしれませんね。

    アメリカで一般道での自動運転
    完全自動運転の配車サービス

    国家プロジェクトで動いていることがあると聞いています。

    ― 自動運転をするときに全て車に任せるのではなく、インフラの部分、特に信号機との協調が重要で、信号機がもうすぐ赤になると車に伝えれば車は安全に止まれるし、もうすぐ青になると分かればすぐに走行できるようになります。また、信号機が西日の逆光で見えないときに間違って信号を無視してしまうかもしれません。それを防ぐためにインフラ側の機能として何を持たせたらいいかを考えています。

    これから世の中がどの様に変わっていくのか、面白いようであり怖いようでもありますが。

    ― 10年前にスマートフォンは今ほど普及していませんが今は当たり前で、生活が格段に便利になっています。10年後はもっと便利になっていて住みやすくなっているかもしれないので楽しみもあります。

    サッカー好きでもある先生ですが、世界のトップレベルのサッカー選手は今やAIの力抜きでは語れないとのことですが。

    ー 瞬時に選手がどう動いているかを撮影分析して、試合中にゲーム戦略として反映されています。サッカーの場合は人との駆け引きで、相手のどこの部分を見てパスを出せば味方にボールが通るか、ボールを蹴る時相手からどれくらい離れていればパスを受けられるかという時、大切なことは「姿勢」です。両足が地面についている相手は、どんなにその相手の近くにボールが通ったとしても足が出せない。腰の位置が下がっていないとか人が動けない姿勢があるのです。その時にその姿勢になっているか否かに着目しています。一流の選手がどこを見てその判断をしているかはまだ分析できていませんのでここが研究対象です。

    先生のゼミ生がMIRU長尾賞を2年連続で取っていて、これは素晴らしい快挙ですね。

    ― コンピュータービジョンの分野の国内で一番大きな会議で、国公立大学も含めた300の研究の中から最優秀賞をいただき、内容は先にあげたスポーツの姿勢の研究についてです。彼は投げる、蹴る、などの行動で、頭、肩を繋いだ線情報の中の、膝や肩がどのような位置関係になっているかを分析しました。

    MIRU長尾賞

    スポーツだけではなく囲碁、将棋の世界でもAIとの勝負になっていますが、東海地方が産んだ藤井聡太名人もAIを駆使していますね。

    ― AIが飛躍的に進歩している中で、囲碁と将棋のプロと勝負してAIが勝つことが日常的に行われています。AIがどのような基準で打ち、指すかを人が学んでいき、人も強くなっていきます。AIと対戦し人とAIが競いながら最後は人が強くなるのが理想ですね。

    人間だと対戦中に焦り、自分自身への怒りなどの感情を持ちますが、コンピューターはそれが皆無ですね。

    ― 感情を持たせるのがいいのか、単純作業に徹するのがいいのかAIの存在定義によって議論になっています。人間のような知性を実現するのがAIですが、そこに感情が入ると、AI自体が人と反する行動を取ってしまうのではないかとの恐れを危惧する人もいます。

    現在、大学の創造的リベラルアーツセンターで学生たちに「科学は本当に人間を幸福にするのか」という授業を行っていますね。

    ― 学生同士でテーマについて議論を行います。科学がどう幸福にするかですが、例えば注目されている再生エネルギーですが、科学技術の進歩によって電気を太陽光で発電できるようになり、それによって原発が不要になるかもしれないと言われています。社会的にCO2削減のメリットの反面、原発1基分を賄うのにどれだけの面積が必要かというと、東京の山手線の内側の面積分です。果たしてそれだけのスペースが実際あるのか、どちらがいいのだろうという話し合いをしています。学生からもこちらが意図しない意見も出てくるので、教える側も刺激があります。

    インタビュアー感想:淡々と冷静にお話をされる先生は、どんなことがあっても動じないAIに少し似ているような気がしてきました。その上、感覚を張り巡らせながらご自分の仕事を精一杯実行していく頼もしい先生であることも確かです。以前の取材で「AIとの共存で、より人間が想像できる時間を作りたい」とおしゃっていたのが印象的でした。

    山下 隆義
    工学部 情報工学科 教授
    専門分野 画像処理、パターン認識、深層学習、機械学習

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