ワクワク好奇心研究室 Vol.10 

お知らせ

    金政真先生 応用生物学部環境生物科学科

    金政先生は、中部大学のフヨウの花の酵母菌から作ったお酒「白亞」の生みの親ですが、酵母にフヨウの花を使用した経緯をお願いします。

    ― 元々芙蓉の花だけを狙ったのではなく、愛知県内の色々な植物からこのお酒に適した酵母を探したかったので、40種類くらいの植物から探しました。菌の種類としては400を超えるほどになってしまいました。

    芙蓉の花(私蔵)

    酵母が決まった後の難題はお酒造りだったと伺っています。

    ― 実際の商品にするには醸造会社と一緒に造り上げなくてはなりませんが、醸造会社で使用したことのない酵母を扱ってくれるところ、いわばチャレンジ精神がある社長の存在が大きく、結果的に東春酒造(株)の社長が「やってみよう!」と引き受けてくれ、杜氏さんとも話し合いながら造っていきました。

    東春酒造(株)での「白亞」のモロミ工程を見学している様子

    その時にご苦労があったのですね。

    ― 苦労をしたのは私ではなくて、東春酒造の杜氏さんでした。他に愛知県の食品技術工業センターの方々にもバックアップをしてもらい、頻繁に発酵の過程をチェックしていただきました。お酒ができたときですが、嬉しいと言うよりは、できるかどうか分からなかったので非常に安心したという気持ちが大きかったです。

    お酒づくりは細かい工程があるのですね。

    ― 複雑すぎるくらいです。醸造酒の種類の中で順番ではまずワインがあります。これはとても乱暴な表現かもしれませんが、ワインは酵母を使ってブドウの汁を発酵させるという一段階でできるものです。次にビールですが、ビールの原料は麦の酵素で分解させてから酵母で発酵させます。この時に使う酵素は微生物でなく植物由来の麦芽です。清酒はそれに比べて原料が米です。米のデンプンを分解してから発酵させます。分解をする時の酵素に何を使うかが問題で麹カビという微生物を使用します。主役の微生物だけでも麹カビと酵母の2つ出てきますね。特性の違う菌を同時に扱いながら使用するので、非常に難しい醸造法で日本が得意とするところです。このように高度な技術で造られているのが日本の清酒です。

    醸造酒の簡単な製法の図

    世界中見渡してもこれだけ精度の高いお酒は見当たらないということですか?

    ― ゼロではありません。中国でも同じような工程のものはありますが、使用している微生物が違います。日本の清酒は独自の進化を遂げて発達してきたものです。

    2016年に「白亞」のお酒が発表されたのですが、その時のお気持ちはいかがでしたか?

    ― 研究を始めたのがその3年ほど前でした。最初は学生と遊びで始めたので、正式にプレス発表できた事は感慨深いものでした。

    美味しいなと思われましたか?

    ― そうですね。お酒は好き好きと言いまして何が一番とはいきませんが、このようなお酒もあってもいいのではないかというような美味しいお酒になりました。

    私の周りでも飲んでもらったのですが「飲みやすくて美味しい!」との評判です。春日井市の周辺のスーパーや飲食店でも「白亞」が卸されていますね。先生は微生物の研究をしていらっしゃいますが、私達日本人は本当に微生物の恩恵を受けているなと思います。

    ― わざわざバイオテクノロジーという言葉を使わない時代から、味噌、醤油、清酒、焼酎、納豆など微生物を使って日本で造られてきたもので当たり前のようにありますが、高度な技術で造られている、まさにバイオテクノロジーです。

    白亞(私蔵)

    先生はカーボンニュートラルを目指したバイオマス利用のご研究をされていますが、具体的に説明をお願いします。

    ― CO₂排出量削減と脱石油社会が叫ばれています。太陽の光で植物が育ちますが、この植物をバイオマスとして利用すると、石油がなくなる問題解決とCO₂排出量削減ができますが、ここで微生物を利用して植物のバイオマスを利用しようという研究です。例えば植物を燃料化するとか、バイオプラスチックの原料を作るなど微生物の分野から研究をしてきました。

    バイオマス無限循環系の例

    私も初めて知ったことですが、薬などに微生物が使われていたのですね?

    ― そのまま使われているものもありますが、微生物が作っているものをきっかけに開発されたものもあります。例えば、かなり古い時代から胃薬は微生物で作られています。これは日本の醸造技術を応用したものでずっと実用化されているのです。近代的なものでも色々な調味料や、病気に対応する薬の生産などに微生物は使われています。

    実は抗生物質もそうなのですね。

    ― 微生物が作っている周りの菌を抑えるための物質がありますが、これを人間が薬として利用しているわけです。病原菌を殺す目的で人間は微生物を利用させてもらっています。そのままでなく、改良されて使われていますが、非常に大きなヒントを与えてくれたのが微生物です。

    微生物の正体が気になるところですね。

    ― 正体までは私もわかりませんが、微生物の定義は明確で、「肉眼で見えないほどサイズが小さな生物」です。細胞構造などではなく、サイズがポイントです。サイズが小さいというだけで微生物と呼ばれるわけですから、微生物には植物に近いものも動物に近いものもあり、非常に多様で面白いものも怖いものも沢山います。

    平板寒天培地に生育させたフヨウ花酵母

    伺っていますと、微生物は想像以上の莫大な力があるような気がしてきました。

    ― 我々が困っていることを微生物は助けてくれています。抗生物質もそうですが、昔日本の国民病であった結核は、微生物が作る抗生物質のお陰で、今では国民病ではなくなって多くの人が亡くなることは無いわけです。今後も研究することで利用でき、もっと皆さんの生活が良くなるように使えるのではないかと思っています。

    インタビュアー感想:
    中部大学を代表する清酒「白亞」は色々な人の手によってできた作品と言っても良いと思います。何本か買って、いただきましたが実に飲みやすい清酒です。それにしましても、微生物の恩恵をこれほど受けている国民があるでしょうか。その微生物で作られている日本酒は、昔の人々の知恵の賜物と自負してもよいのではないかと改めて思いました。

    金政 真
    応用生物学部 環境生物科学科 准教授
    専門分野:応用微生物学、分子生物学

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