ワクワク好奇心研究室 Vol.14 

お知らせ

    横手直美先生 生命健康科学部保健看護学科

    ご専門の帝王切開分娩時のケアは、どのような事態になると普通分娩から帝王切開になるのでしょうか。

    ― 大きく分けて母体の要因と胎児の要因とに分かれます。また、予定を予め決める帝王切開とお産の途中で緊急事態が生じ帝王切開になる場合があります。後者が緊急帝王切開です。

    「ママのための帝王切開の本」は一般の妊産婦向けの先生と
    産科医師らによる共著

    緊急時はどのような事態でしょうか?

    ― お腹の中で胎児が危険というサインを出すときで、心臓の動きがゆっくりしている時です。また母体に緊急事態が発生した時ですが、妊娠高血圧症候群だった方の血圧が上がり危険値になるとか、本来は胎児が外に出た時に剥がれる胎盤が先に剥がれそうになることがあり、臍帯(へその緒で母体と胎児が繋がっているライフライン)が絶たれてしまうので、胎児の心臓の音が弱くなるなど緊急の手術になります。また、陣痛が長引いて分娩停止や遷延分娩のときは、母体は体力気力が限界になりそれに伴い胎児の力も落ちるので、帝王切開で胎児を出してお産を終わらせるということもあります。

    日本ではどのような頻度で帝王切開になるのでしょうか。

    ― 10人中2人ぐらいなので20%です。予定帝王切開と緊急帝王切開が半々ぐらいなので、予定もなく帝王切開になる方が10人中1人はいらっしゃいます。

    普通分娩で予定していたお母さんもいきなり帝王切開になることがあるとのことで、心の動揺がありますね。

    ― 通常は妊婦健診を皆受けているので、順調と言われたらお産も順調だろうと思いがちです。普通に産めると思っていたお産が、実は何が起こるかわからないのもお産です。お産の理想や夢をそれぞれお持ちだけれど、それがガラッと変わってショックを受けられます。その時胎児を早く出さないと危険だと告げられるととても怖く、10ヶ月間守ってきた命が消えそうだとなれば恐ろしい事態です。また無事に生まれても後遺症があったらどうしようという心配もあります。出産の環境が一変してしまうので、この圧倒される怖さ、無力感など様々な想いが一気に押し寄せることになります。それが分娩時のトラウマという形で残る方もいらっしゃいます。

    介入研究の教材として開発した
    小冊子の表紙で英語、
    ポルトガル語、中国語版も制作
    トラウマ関連参考図書

    お母さんと赤ちゃんの2つの命がかかっている、その時に立ち会ってくれる看護師さんや助産師さんの存在はお母さんにとって大きな助けになりますね。

    ― その通りだと思いますができることには限りがあります。10人に1人は急に帝王切開がありますが、今はどの妊婦さんにも事前にお産時にはこのようなことが起こる場合があり、この様に乗り越えられますと情報提供をしています。出産準備教育といいますが、ショックはこれで幾分でも抑えられると思います。

    普通分娩の出産時の赤ちゃんですが、奇跡にも似た動きをするということですね。

    ― お産がスムーズに進むためには、3つ大切な要素があります。

    1つは胎児そのもの、2つ目は産道(赤ちゃんが通る道)、3つ目は胎児を生み出す力で、母親が息む力や、娩出力(陣痛)になります。この3つがうまく噛み合うと安産になります。

    この間、胎児はただ押し出されるのではなく準備をしています。もうすぐお産だと分かると顎を胸につけます。何故かというと、女性の骨盤は上から見るとハート型をしていて横長になっているところへ、胎児が自分でそこにピッタリはまるように動きます。陣痛がやってくると徐々に押し出されますが、女性の骨盤の出口(下側)は、縦側が広くなっているので、頭の大きい胎児は、頭を90度回転して縦側に合わせ、ついに外の世界に出てくる時は顎を離して上を見上げるように「こんにちは!」と顔を出します。 次に肩が出てきますが、このままの姿勢だと肩がつかえるので、また90度回転し肩まで出てきたら、助産師がそっと出すのを手伝い産声をあげるのです。外に出てきてくれるまでは、自分で回ってくれないと困りますから、まさに奇跡の動きですね。

    女性の骨盤モデル。上から見るとハート型。
    陣痛が始まると、児頭ははじめはこの向きで
    下がってきます。
    やっと頭が出てきまして「こんにちは!」

    出産後のケアで、「ベビーとママのエクササイズ」を定期的に開催されていますね。

    ― 赤ちゃんの肌はすべすべで柔らかくて気持ちいいのです。赤ちゃんにタッチするとママもパパもオキシトシンというホルモンが出ます。これは愛情ホルモンと言って、もっと愛おしくなります。赤ちゃんも触られることが大好きなので、皮膚は第二の脳と言われているくらい重要です。その赤ちゃんにマッサージをしてスキンシップをしますが、そこに自然な運動発達を促すエクササイズを取り入れます。産後のほとんどのお母さんが腰痛を持っているので、心も体もリラックスしてストレッチをします。そこに総合大学ならではをプラスして、幼児教育学科の千田先生とコラボして、赤ちゃんの発育発達を促す玩具の選び方、遊び方をご紹介頂いています。他にスポーツ保健医療学科の救急救命士の北辻先生とのコラボは、乳児のもしもの応急処置を講義してもらっています。

    みんな笑顔で記念撮影。
    保健看護学科の卒業生ママも2人いました!
    赤ちゃん大集合
    ベビーエクササイズ(ブランコ)の様子。
    ママも下半身のトレーニングになります。

    保健看護学科の学生は両親にも教えられない未知のことを学生時代に学べるのは嬉しいことだと思いますが、看護師、保健師、助産師さんに憧れて入学してくるのでしょうか。

    ― 資格系なので看護師は絶対なりたいと思って入ってきますね。お産の見学もしますが、とてもピュアでパパよりも先に感動で泣いてしまう学生もいて、女子学生だけでなく男子学生にとっても人生の予行演習にも良いと思います。

    先生のモットーを教えて頂きたいです。

    ― 次世代を創る、つまり未来を創るのが母性看護や助産学の醍醐味でそこは大事に伝えています。これは、持続可能な社会の前提としても大切なことで、妊娠・出産・子育てはSDGs 0(ゼロ)なのです。

    インタビュアー感想:
    赤ちゃんが安心安全に生まれてくるのは本当に大変なことだと思うと同時に、誰に教えられたものでもないのに、お母さんの体に合わせて体を回転させながら世の中に出てくるなんて、小さな体の自然の摂理ってなんて素晴らしいのかと感動します。命の大切さを学ぶ学生は貴重な体験ですね。

    横手 直美
    生命健康科学部 保健看護学科 准教授
    専門分野:母性看護学、助産学

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