ワクワク好奇心研究室 Vol.5  

お知らせ

    平手裕市先生 生命健康科学部臨床工学科

    心臓血管外科のドクターとして30年以上携わり、心臓や大動脈の手術をする医師だった先生ですが、外科手術の中でも非常に神経を使う仕事ですね。

    ― 結果がよく分かる治療なので、外科医に限らず助手、看護師、麻酔医などすべてのスタッフが協力しあって結果を出すことが100%求められるので、その期待に添えなければならないですね。

    100%求められるって辛いですね。

    ― 心臓や大動脈を扱う手術ですから、一針の間違いが命に関わるので、気が抜けないシビアさがあります。心臓の血管というのは、冠動脈とか冠状動脈と言って、心臓の筋肉に栄養を回すような血管があり、それが狭くなったり詰まったりする狭心症、心筋梗塞など虚血性の病気があります。その場合は詰まった血管の向こうにバイパスを繋げていく、心臓の血管に血管を縫うという作業です。そのようなバイパスの手術もかなり多いし、それ以外にも弁膜症と言って、心臓の大きな弁が4つありますが、それが壊れていると形成したり人工弁に替えるなどする手術があります。私の場合は心臓と大血管の専門でした。

    心臓血管外科医だった頃の執刀中の先生

    気が遠くなりそうなお話ですが、その血管は何ミリですか?

    ― 冠状動脈はだいたい2ミリ程度。1.5~2ミリあれば無難に縫えます!多分外科医ならば全て同じ様に求められていると思います。例えば皮膚を縫うときにきれいに縫えるかできないかは才能的なところもあって、やってみるとすぐ差が出るのです。厳しい先生だと最初に皮膚を縫わせて、縫い方だけで「お前諦めろ」と決断を下されてしまうこともあります。

    厳しい世界ですね。

    ― 厳しくないと患者さんは安心して受け入れられないですから。

    臨床工学科では臨床工学技士を養成していますが、この職業は心臓手術には欠かせない職業ですね?

    ― 100%欠かせないです。多くの心臓の手術は心臓を一旦止めないといけません。止めると心臓に代行する装置が必要です。心臓が止まると肺も止まるので、その状態だとあっという間に死んでしまいます。手術中に心臓と肺の機能を代行する人工心肺を操作するのが臨床工学技士です。臨床工学技士がいなくて心臓の手術をしているところは、ゼロです。

    臨床工学科の実習

    臨床工学科がある国立大学がゼロと伺いました。

    ― 現実国立大学の中には臨床工学技士を養成するコースが有りません。公立大学で1箇所だけ北陸にありますが、いわゆる昔からある国立大学には一つもないのです。(追記:インタビュー時期にはありませんでしたが、現在国立大分大学に養成コースがあります)

    これまでは専門学校が代行していたのですか?

    ― 中部大学のような私立大学など養成コースがある大学と専門学校が受け入れています。

    その中でも中部大学は優秀なのでしょうか?

    ― 優秀になれると思っています。全国色々な養成校がありますが、特に重要な工学系のトレーニングに関しては、総合大学であるゆえ工学のプロの先生方がいらっしゃいます。これは、簡単なようで簡単でなく貴重なことです。学生はそれをしっかり身につけて現場に行くので、気がついた時にはその重要性がわかってくるだろうと思います。国立には養成校がないので、中部大の卒業生は全国の大学病院、例えば東京大学、京都大学やこの地域ですと名古屋大学、名古屋市立大学など国公立大学附属病院にも就職しています。

    臨床工学科の授業で心電図を学生に教えていらっしゃいます。大学内だけではなく、全国の医療関係者から先生の心電図解説を聞きたいという引き合いがあると伺いました。

    ― 心臓外科医だから心電図学の専門ではありません。ただ、心臓外科の治療をしているときに、モニター心電図と称する心電図による生体情報は常に目の前にあるものです。私を含めて周辺のスタッフもそれを見ていないといけません。ある時病棟の看護師が夜ずっと見ていたときに変な波形が出ていて、朝になったら「先生変な波形が出ていました」と見せてくれました。見たらそれは心室頻拍という致命的になり兼ねない、恐ろしい波形だったんです。大丈夫かと聞いたら幸い自然に収まっていて事なきを得ましたが、これはまずいと思って、勉強会をしよう!と呼びかけたのがきっかけです。経験の少ない看護師を集めて膝を突き合わせて教えている内に、病棟の勉強会が病院の勉強会になり、外部からも来てほしいと言われ、名古屋大学で行うと募集に対して3倍ぐらい応募があり、その話を聞いた、静岡、東京とあちこちにどんどん広がっていきました。

    全国から呼ばれる心電図講演で話す先生

    それだけ、先生の説明が興味深く、すっと理解できるということなんですね。

    ― 私が心臓外科医だったので日頃から心臓を見ています。見ている心臓がどういうときに心電図の波形がどうなるかの説明がしやすかったのかもしれませんね。実際に手術中のビデオなども出して、視覚的に教えることがわかりやすかったと思います。

    臨床工学科ができたのが2011年ですが、その時の1期生の卒業生が、先生の以前の職場である掖済会病院の臨床工学士で、ある素晴らしい賞をもらったとのことですね。

    ― 日本循環器病学会という循環器病に関しては日本の老舗の学会で、看護師、放射線、リハビリの技士の方などのコメディカルセッションで、最優秀賞を取りました。彼女は前年度もその学会で優秀賞をとっています。他の名だたる施設を押しのけて1番を得て素晴らしい研究だったと思います。もう一つ宣伝しますと、翌年、研究生の学生が学部の卒論を書いていた時、緻密にデータ処理したらとてもいいデータが取れたので、それを3月の日本集中治療学会に提出したのは良かったのですが、国家試験を控えていたので当の本人は発表ができずに、代わりのものが発表したところ、臨床工学技士部門で最優秀になりました。色々な分野で研究も含めて活躍する学生が育ってきたなというところです。

    学生の伸びしろはどういうところにあると思いますか?

    ― それまでの基準が非常に単一的で偏差値だけで人を判断してきました。実は隠された能力を持っている学生がたくさんいます。現場に行って実力が重要となるとガンガン伸びるので期待しています。

    先生の一面をご紹介したいのですが、研究室には“インディージョーンズのポスター”が貼ってありますね。

    ― 私はあのシリーズが大好きで憧れています。衝動買いでサインが入っている本物です!高かったのですが買ってしまいました。

    インディージョーンズもハラハラドキドキしますが、そのハラハラドキドキのストレスにも今ご興味があるのですね。

    ― ハラハラドキドキで心臓が踊るのと緊張で踊るのとでは全く違います。同じドキドキでも質が違うので、できれば質の良いドキドキが幸せですね。その違いを見極められないかと思って研究しています。ストレスという言葉が独り歩きしていて、ストレスの4文字で悩んでいる方がとても多いので気になっています。もともと臨床医なので、悩んでいる方がいたらなんとかしたいですね。皆自分が悪いのだと決めつけていますが、実はそうではないというところを広げて行きたいです。

    インタビュアー感想:
    1.5ミリの血管手術のお話は、外科の先生の印象が変わりました。手先が器用な先生だったから困難な手術を全身全霊で行えたというお話も後ほど伺い、自らの命をすり減らして命を救うまさにお医者様の見本ですね。医学部が無い本学では実体験を伺える貴重な講義だと思いました。

    平手 裕市
    生命健康科学部 臨床工学科 教授
    専門分野 外科系臨床医学、心臓血管外科学、心臓血管外科修練指導者

    中部大学について