身近な事例から知的欲求をいざなう

お知らせ

    人文学部日本語日本文化学科
    教授 永田 典子

    平成23年度より日本語日本文化学科1年生を対象とする「伝承文化入門」を担当することになり、暮らしの中で伝承されてきた人生儀礼、年中行事を取り上げ、日本人の基層文化について検討する授業を行っている。学生たちは伝承文化を学校教育の場で体系的に学習する機会はなかったであろうし、その基礎知識は家庭が学びの場となるはずであるが、核家族化によって家庭での体験による伝承が廃れてしまっている。そのため、授業ではビデオ映像を多用し、事例の具体的イメージが把握しやすいようにした。

    導入教材としたのは、1980年代に名古屋市守山区志段味地区で行われた年中行事の映像である。年の暮れに墓掃除をしている人々の背後に見える建物が本学20号館だと知ると、学生たちからちょっとした喚声が上がった。わずか数キロメートル離れた土地の年中行事、例えばご来光を仰ぎに東谷山に登ること、元旦の食事は男性が用意すること、弘法様を祀まつる家々を巡ってお菓子をもらうこと、茅ちの輪をくぐって穢けがれを祓はらうこと等々の由来を説くと、予想外に興味を示してくれた。今まで何気なく見過ごしてきた風景の意味を知ることは、彼らにとって驚きでもあるようだ。その後は、毎回各地のさまざまな事例 を取り上げ、由来ばかりでなく、伝承文化を支える人々の紐ちゅうたい帯、帰属意識などについても考えさせるようにした。

    生まれ育った環境によってビデオ映像への反応はまちまちであったが、肝心なことは、地元民にとってありふれた光景が日本人の精神文化を探る重要な第一次情報であると理解させることである。この授業ではビデオ映像を単なる事例紹介に終わらせずに、第一次情報を段階的に抽象化させる思考方法を身に付けさせるように心掛けたつもりである。その指導は、この授業だけで完結させることは難しく、卒業研究でようやく結実することかもしれない。まずは、身近な事例の由来や意味を知ることが、学生たちの知的欲求をいざなってくれればと願う。

    ANTENNA No.108 (2012年2月)掲載

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