学生の無限の可能性を伸ばすために

お知らせ

    工学部都市建設工学科
    准教授 伊藤 睦

    今年度から、初めて1年生の講義を担当することになった。入学直後ということもあって、学生たちはきちんと講義に出席して、真面目にノートを取っている。それはそれで大変良いことなのだが、むしろ不安を覚える。それは、教える側の能力に依存して、学生たちのポテンシャルが影響を受けるのではないかと思うからだ。パブロフの条件反射では、犬の話が有名であるが、ノミの話も聞いたことがある。ノミは、自分の大きさと比較して一番高くジャンプできる生物であるが、小さな箱に入れておくと、箱の外に出しても箱の高さ以上のジャンプができなくなるそうだ。授業という箱の中にいる学生がそのようになってはいけないので、授業では、ある問題の周囲にある複数の本質的知識を教えるとともに、それら点の知識を専門分野の問題などと関連付けて、線で結ぶことを心掛けている。これは、ニューロンをシナプスで結ぶ脳内の挙動をモデル化したニューラルネットワークのようなものを構築し、ここに、学生の自己学習などが加わることで、学生の能力が拡大することを意図したつもりである。

    これはこれで良いと思っているが、別の授業でこんなことがあった。私は数値解析が専門で、数値解析の本質を熟知しているつもりである。数値解析を扱う授業で、まだその理屈を教えて いないのに、ある学生は全く別の発想から問題を解いてきた。これには正直驚いたが、それ以上に、いろいろと考えさせられた。もし理屈を教えていたら、学生のこの自由な発想は生まれなかったかもしれない。人に何かを教えることの難しさを感じた。

    到達目標が決まっていても、そこに到達するためのプロセスは数多くある。良かれと思って一生懸命教える方法や内容が、学生たちの自由な発想を妨げてはいけない。パブロフの条件反射ではないが、授業で教える常識や内容が、悪しき条件反射とならず、学生の無限の可能性を十分に伸ばす授業ができるように精進したいと思う。

    ANTENNA No.110 (2012年6月)掲載

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