工学部建築学科
教授 渡辺 健治
社会にある多くの組織には多様な人間が参加しており、十人十色の考え方がある。これを取りまとめるためには、個々の組織構成員の事情や背景を理解する必要がある。私の授業の究極の目的は、こうした組織の核となる人間の育成である。ところが、これから社会へ巣立とうとする現在の学生たちは、他人との距離を置きすぎるきらいがある。
私の担当する授業「自己開拓」は、他人との触れ合いを通して、自己に秘められた可能性を発見しようというプログラムである。多くの学生は潜在的に高い能力を有しているが、「触らぬ神に祟たたりなし」という社会環境で育ったがために、その能力の多くを埋もれさせてきたのだと私は思っている。私の授業は、埋もれていた自分自身を発見するプログラムであり、私が発掘するわけではない。他人との触れ合いは、時に傷つくことがあるかもしれない。しかしちょうどよい距離感を保つための訓練をしなければ、いつまでたっても近づくことができない。この授業を通して大きく花開く学生もいれば、凍っていた心が溶けてきた学生もいる。外見だけでは判断できないが、彼らの毎週のレポートの行間からは、固く閉ざされた心が少しずつ開いていく様子が読み取れる。
もう一つの特徴として、私はこの授業を本体・宿題ともにe-learning化している。受講生は当日の課題のテーマから回答、レポート提出など全てWebアプリ経由で行う。教員側も教員専用のWebアプリで授業進行を管理している。受講生の動向はSA(Student Assistant)がiPadを駆使してリアルタイムにデータベースへ放り込むことで、多人数教育でありながら、個々の学生の動向にも目配りが可能となった。こうした工夫により、教育効果を高めつつ教育コストを下げることが可能となった。さらにこの授業方式はe-learning部分がブラックボックス化しているため、他者の追随を許さない中部大学独自の教育システムとなることであろう。
ANTENNA No.125 (2014年12月)掲載