「教えれば学ぶ」という「神話」

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    人文学部英語英米文化学科
    教授 塩澤 正

    初めてTED TalksでSir Ken Robinsonの講義を聴いたときの衝撃は今でも忘れられない。氏はスライドも動画も使わないが、その深い教養からあふれ出すウィットの効いた話しぶりには、一瞬のうちに引き込まれ、知的興奮さえ覚える。退職前に一度くらいはあのような講義をしてみたいと思うが、無理なことは分かっている。せめて私にできるのは、学生にさまざまな問いかけをし、その反応をまとめ、さらに課題や作業を共有しながら効果的な学びが生まれることを期待する程度である。「教え過ぎない」で、学生と一緒に考え、授業づくりをする。ここに学生の能動的な学習への参加を期待する。このspoon feeding的な授業をしない授業展開が、私の授業づくりの基本である。別の言葉で言えば「帰納的」な学び方の重視である。要点やルールは先に出さない。多くの事例から規則や重要点を学生と一緒に導きだすような授業展開である。「教えれば学ぶ」という発想は、“Tell me and I’ll forget. Teach (Show) me and I may remember. Involve me and I will learn.”という格言にあるように、昔から「神話」でしかない。自分にとって「有意味」な領域で、自分で考え、気づいてこそ、学びが深く定着すると考えている。

    もう一つ、私の授業で特徴があるとすれば、加算方式のテストである。従来の試験では、できないことに対するペナルティーが100点からの減点であった。しかし、本来、試験とは理解を確認するための「診断テスト」であるべきであり、学習の動機付けの一助となるべきものであろう。よって、私はテストではできたことのみを評価し、期待以上にできていれば、基準点を超えて加算するようにしている。100点満点なら、110点や120点をとることも可能である。そういう学生が何人いても構わない。世界的な言語評価基準であるCEFR(ヨーロッパ共通言語参照枠)も似たような発想をしている。私の独りよがりでもなさそうだ。この方式はそれなりに学生のやる気を刺激するようだ。動機付けの高い学生の何人かは満点で不満を言う。大学への成績報告は…? 別物である。

    ANTENNA No.154 (2022年1月)掲載

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